「交番襲撃」が相次ぐ理由 元警察官僚、古野まほろ氏が分析

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全警察官の約40%を占める地域警察官

――そうすると、今後の交番は、市民が考えるものと大きく異なってくる可能性があるが。

「これまで警察は、24時間365日体制で、警察に対する市民のアクセス権を保障してきた。アクセスするときの案件についても、広範な『市民応接』が含まれるなど、事実上制限はなかった。だから警察は、交番・駐在所の運用に関しては、『全警察官の約40%を占める地域警察官』という大兵力を、地域社会に広く薄く分散する戦略をとってきた。そうしなければ、それぞれの地域社会において、現在行っている業務の水準が維持できないからだ。

 しかし、『広く薄く分散する戦略』ゆえに、当然、脆弱性が生じる。それがワンオペ問題であり、誘き出し問題であり、つまりは襲撃・強奪問題だ。

 この戦略を変更しないかぎり、この問題は根本的には解決できない。

 ……ここで話を戻すと、要はこれは『市民の判断の問題』だ。(1)警察の現在の戦略とサービスを支持し、脆弱性にパッチを当て続けさせることを選択するのか(その分、強奪事案発生時のリスクは減りづらい)、(2)警察に現在の戦略とサービスを変更させ、脆弱性そのものの解消を目指すのか(その分、交番の統廃合、開庁時間の縮減、行政サービスの縮小といった不利益を被ることになる)。これについての、市民の選択と判断の問題だ。

 既に述べたとおり、いずれを選択するにしても政策オプションはある。それについて、実際に第一線で命を懸けている、現場の地域警察官の意見をしっかり聴く必要もある。実際、当事者であるにもかかわらず、また生命身体の危険を他の部門の警察官より切実に感じているにもかかわらず、地域警察官の扱いは『ぞんざい』であり、その名誉が尊ばれているとはお世辞にもいえない。なら、そもそも交番・駐在所とはどうあるべきか、その地域警察官とはどうあるべきかについて、令和の時代に入ったところで、地域警察官の意見を聴き、地域住民と対話しながら、抜本的に考え直す必要があるのではないか。

 なお、念の為に付け加えておけば、私は地域警察部門では巡回連絡の旗振り、遺失拾得事務の適正化等をやってきたので、上のようにそれらの意義を自ら疑問視するのはつらいが……何よりも優先されるべきは『これまでどうやってきたか』あるいは『伝統の美しさ』ではなく『これからどうあるべきか』だろう。警察最大の財産はヒトであり、その約40%は地域警察官である。聖域のない見直しを、警察部内でも市民との対話においても、やっていかなければならない。懸かっているのは地域住民の安全と地域警察官の生命だから。

 その意味で、ちょうど今年の4月から、このような問題を所掌する警察庁地域課がリストラされ、警察庁地域警察指導室に格落ちしたのは……たぶん警察庁発足時以来のことだと思うが(発足時は「警ら交通課」)……組織改正に係るギリギリの判断があったはずだとはいえ残念なことだ。現場の都道府県警察には地域部なり地域課があるのに、その音頭を取って戦略を定める警察庁に地域課がなくなったというのは、相次ぐ交番襲撃とそれが突き付ける課題の重さ、また地域警察部門の士気に与える影響を考えると、タイミング的に微妙である」

――最後に、秋田・福岡両県警で警察本部長を務めた京都産業大の田村正博教授は、今般の事案について、「少人数の警察官を分散配置させる交番機能が持つ性質上、今回のような事件を防ぐ対策を立てるのは非常に難しい。警察官の命を守るには、深夜帯まで住民サービスを提供している現状の交番機能のあり方を見直すしかない」と述べているが、どう考えるか。

「報道でお聴きした。御慧眼で、私が拙いことを縷々述べてきたことのまとめとしてそのまま使わせていただきたいほどだ。

 敢えて付け加えれば、これは当然の前提だろうが、『交番機能の在り方の見直し』には、特に現場の地域警察官の声が反映されるべきだと思う(ひょっとしたら、例えば、拳銃を所持する/しないについても意外な声が聴けるかも知れない)」

古野まほろ
東京大学法学部卒業。リヨン第三大学法学部修士課程修了。学位授与機構より学士(文学)。警察庁I種警察官として警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務し、警察大学校主任教授にて退官。警察官僚として法学書の著書多数。作家として有栖川有栖・綾辻行人両氏に師事、小説の著書多数。

デイリー新潮編集部

2019年6月26日掲載

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