「交番襲撃」が相次ぐ理由 元警察官僚、古野まほろ氏が分析

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交番は24時間365日営業している治安のコンビニ

――どうすれば解決できるか。

「ドラスティックに定員を増やす(納税者がそれを受け容れる)という選択肢を除外すれば……。

 例えば、『どの地域警察官が、どこで、どのような内容の1人勤務をしているか』について、無線やIT技術を用いて、警察署において……あるいは非常時においては警察本部において……リアルタイムできめ細かに管理できるシステムを構築してみることはできないだろうか。

 実際、『マンロケーション機能』はもう導入されているし、体制が弱くなった交番へ交番相談員やパトカー勤務員が『支援』に赴くことも励行されているし、マンパワーを大きな交番に集中させ有効活用する『ブロック運用』も定着して長い。

 ゆえに、『今誰が1人か』『今誰が襲われやすい状態か』を可視化し(時として個々の地域警察官の職務執行状況を可視化することも検討されてよい)、それを組織として把握し、高リスク警察官とは常に連絡を取り合う……などすることはできると思う。業務管理というよりは、『受傷リスク』『襲撃リスク』を組織的に管理する方法があってよい。そうしたリスク判断をシステムとして行い、高リスク警察官には支援を向かわせるか、あるいは他の交番等に合流させるなどの措置を講じるか、はたまた、極論交番を一時閉めさせるなどすることが考えられる。加えて、このリスク判断において、例えば『その地域警察官がベテランなのか新任巡査なのか』といったデータも可視化できればなおよい。要は、『受傷事故防止支援システム』とでもいうべきものを構築できないかと思う」

――そうはいっても、人が増えない以上、小手先の対処という感じがするし、1人勤務が構造として避けられない以上、どれだけシステムを整備しても襲撃は防げないのでは。

「確かに、既に述べたとおり問題の本質は『地域警察官のワンオペ問題』であるから、『根本的な』解決は……24時間営業の飲食店と同様……人を増やすか、業務を減らすか、営業時間を短縮するしかない。そして人を増やすことは容易でない。警察事象が複雑多様化している中、地域警察部門だけ増やすということも現実的でない。

 すると、警察の側からはなかなか言い出せないことだが……業務を減らすか、営業時間を短縮するしかない。業務を減らせば、その分実質的に人が増える。複数配置、複数勤務、複数臨場といった目的もその分達せられる。ゆえにその分襲撃リスク・強奪リスクは減る」

――どのように業務を減らせばよいのか。また「警察の側からはなかなか言い出せない」のは何故か。

「まず、後者の質問についてだが……交番制度は明治以来、我が国に根付いてきた伝統である。現在の形での運用を始めた時期から考えても、優に半世紀以上の歴史がある。交番は実質的には、24時間365日営業している治安のコンビニである。その扱う業務も、地理指導(私が勤務していた繁華な交番では1当務に約400件あった)、遺失物の取扱い、相談の受理、家庭訪問といった『市民応接』を多く含む。また、交番等は存在しているだけで犯罪に対する抑止効果がある。ゆえに、市民の多くは、交番等の増設・拡充を求めこそすれ、業務の縮減や営業時間の短縮には同意しないだろう(実際、例えば交番等の廃止・統廃合は住民感情から時に非常に難しい)。

 ただ、社会におけるIT化が進んだ現在、あるいは地域住民のプライバシーに関する意識が進んだ現在、例えば『地理指導』がどこまで必要なのかには疑問があるし、あるいは、地域警察官が必ず行わなければならない家庭訪問(=『巡回連絡』)も、効果と市民の期待の程度からして、いよいよ抜本的見直しが必要なのかも知れない(実は、巡回連絡こそワンオペの最たるものである)。はたまた、地域警察官が『遺失物』を取り扱う理由は、『遺失物横領を防止するため』『交番が市民にとって便利な24時間窓口であるため』といったところだが、ハッキリいってどちらも本質的な理由ではないだろう。加えて、交番における『相談事案』も、他の行政機関が24時間体制、少なくとも当直体制を構築していればスムーズに引き継げるというタイプのもの……本来的に他の行政機関が責任をもって対処すべきものも多く、要は『24時間365日開庁しているから対処しなければならない』『そのために地域警察官のマンパワーが割かれる』『そのために地域警察官が疲弊する』。

 この、地域警察官の疲弊という点にスポットを当て、まず47都道府県警察の現場において、真摯な・公正な・勤務評価等に影響を与えないヒアリングなりアンケートなりを実施し、令和の時代の地域警察官が行うべき業務を再検討していく必要があるのではないか。それが、ワンオペ問題の解消に向けた一歩となるのではないか」

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