「交番襲撃」が相次ぐ理由 元警察官僚、古野まほろ氏が分析
大阪府で交番勤務中の巡査が包丁で刺され、拳銃が奪われた事件。発見された拳銃は実弾1発が発砲された形跡があり、地域社会に与えた不安と恐怖は大きい。元警察官僚の古野まほろ氏に事件について話を聞いた。
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拳銃を入手する最も「安易に」「安直に」思い付く方法
――今般の吹田市における交番襲撃事件についてどう考えるか。
「まず、刃渡り約15cmの包丁で左胸など7箇所を刺され意識不明の重体となった、26歳の古瀬巡査の一刻も早い回復を望む。報道によれば、傷には、肺を貫通して心臓にまで達する深さ11cmのものもあったほか、肺の摘出手術まで行われたとのことで、元警察官として、被疑者に対する強い怒りと憤りを覚える。大阪府警察によれば、容態は快方に向かっており、意識も回復したとのことだが、せめてもだ。公務においてこれほどまでに受傷した、新任巡査である古瀬巡査の名誉が、組織において尊ばれることを望む」
――本件においては、警察官の拳銃が強奪され、地域社会に強い不安を与えたが。
「我が国においては、地域社会に拳銃を所持している者が(警察官以外には)いないことが前提であるから、本件発生から被疑者検挙までの約25時間のあいだ、多くの市民が強い不安と衝撃を感じたのはもっともなことである。
同僚警察官が襲撃されたことを受け、また、地域社会のそうした不安を解消すべく、約5千人体制で捜査を行った大阪府警察の努力に敬意を表するとともに、拳銃が人を殺傷するために用いられる以前にそうした不安が解消されたことを、いち市民として喜びたい。
ただ、報道によれば、被疑者は既に住宅街において1発発射しているし、何やら同級生に不穏な働き掛けをしていた形跡もあることから、より深刻な結果が生じていたことも当然想定される。改めて、この種事案の重大性と再発防止の必要性を感じる」
――最近、交番襲撃が連続しているが。
「確かに、昨年6月に富山市の交番の警部補が刺殺され、また昨年9月には仙台市の交番の巡査長が同じく刺殺されている。加えて、今年に入ってからも、1月に富山市の駐在所の巡査部長がハンマーやナイフで襲撃されたほか、同じく1月、新宿区の交番の巡査が刃渡り7㎝のはさみを突き付けられた。すなわち、今般の事案を除いても、ここ2年で4件の地域警察官(=交番等の警察官)襲撃事案が発生しており、2名の地域警察官が殉職しているほか、拳銃奪取に至った事案も1件あった。もちろん、受傷した地域警察官もいる。
もっとも、警察官襲撃なり拳銃奪取なりは、警察官に対する暴行等が現実に顕在化して初めて認知されるものであるから、実際には、これら以外の『試み』が暗数として存在していても全く不思議はない。我が国で拳銃を入手しようとすれば、それが容易かどうかは全くの別論として、最も『安易に』『安直に』思い付く方法は、警察官襲撃であるから」
――識者の一部からは、警察官に拳銃を携帯させるのを止めるべきだとの声もあるが。
「まず原理原則を述べれば、地域警察官を含む警察官が拳銃を所持することができるのは、警察法第67条がそれを認めているからだし、その拳銃を使用することができるのは、警察官職務執行法第7条がそれを認めているからである。
言い換えれば、警察官は、『人の殺傷の用に供する目的で作られ、現実に人を殺傷する能力を有するもの』(=武器)の所持・使用を、国会が制定した法律によって認められている。更に言い換えれば、それは、民主主義下における国民の負託であり信頼である。しかもそれら法律は、数十年にわたって国民に支持されてきたものである。
したがって、地域警察官による拳銃の所持・使用を止めるべきだというのなら、まずは、極めて長期間、安定的・抑制的に運用されてきた現行法令を改正すべき理由と、根拠となる具体的データを提示する必要があろう」
――法律問題でなく、運用の問題として、また交番の警察官に限って携帯を止めるというのはどうか。
「判断としてはあり得る。そもそも交番・駐在所の地域警察官は、地域住民と地域社会のために活動するものであるから、奉仕すべき対象である地域住民と地域社会がそう判断するというのなら、当然、そうした判断を尊重することになろう。
ただその際、『地域警察官が拳銃を所持・使用する社会的メリット』と、逆に『それに伴う社会的リスク』を、慎重に考慮しなければならないと考える。
前者には、例えば持凶器事案の鎮圧、凶悪犯の逃走の防止、あるいはこれから犯罪を行おうとする者の犯意をくじくこと等々があり、後者には、奪取されたとき地域社会に甚大な不安を与えること、現実に犯罪に用いられてしまうこと等がある。これらのことを慎重に天秤にかけ、リスクの方がよほど大きいというのなら、拳銃の所持・使用にこだわることはない。
しかしながら、私個人の意見としては、メリットの方が大きいと考えるし、リスクを小さくしてゆくことは可能と考える。我が家の近傍で通り魔が発生したとなれば、地域警察官には拳銃を使用して迅速果敢に対処してほしいし、自分の通勤経路で強盗が多発しているとなれば、地域警察官自身のためにも地域住民のためにも、拳銃を所持して警ら等をしてほしい。また現状、国民の多くが『拳銃の携帯は必要』と考えているのではないか。
ゆえにこれ以降は、『拳銃の所持を前提とした上でどうするか』を検討したいと考える」
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