「#KuToo」石川優実さんがフェミニズムに目覚めた「お菓子系アイドル」時代の壮絶体験

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グラドルが社会活動をしてはいけないなんて決まりはない

 これらのエピソードは、企業のパワハラやAV強要問題と構造が同じである。このように、過去、つらいグラビアの撮影現場も経験している石川さんだが、数年前にはヌード写真集を出したり、映画作品で濡れ場を演じたり、最近でもヌード作品を撮っている。彼女がここまで肌の露出やヌードにこだわる理由が知りたくなった。

「私、グラビア自体は好きなんです。そして、自分の体も好き。だから、自ら『ヌードをやりたいです』と濡れ場のある映画に出ました。SNSなどで可愛い服をアップする人がいるように、私も自分の体が好きだから出しています。グラビアやヌードそのものは好きなんですが、圧力をかけられることが嫌なんです」
 
 実は私も、数回だけだが出版・メディア業界でセクハラやパワハラにあったことがある。#MeToo運動が話題になった頃、匿名でとある媒体のインタビューにも答えた。私はこの人に従わないと仕事をもらえないのではないか、という恐怖から泣きながら従ってしまったのだ。

 これが、大物作家であれば断っても仕事が減ることはない。しかし、こんな無名ライターごときが大きな顔で主張をすることなんてできない。当時はそう思っていた。だから、石川さんの語る圧力に関しては自分の身の回りでも思い当たる節がある。

 また、もう1つグラビアに関して疑問があった。撮影会時代、「カメコ」と呼ばれるアマチュアカメラマン(ファン)に撮影されることが多かった石川さん。カメコたちから卑猥なポーズを指定されることに気持ち悪いと感じたり、抵抗はなかったのだろうか。

「私の中でのファンの方への気持ち悪い・気持ち悪くない、の基準は、きちんと自分のことを尊重してくれているかどうかです。私のことを人間として見ているかどうか。残念なことに、半分くらいの人は『ただの脱いでる女』として、見下す対象が欲しいだけでした。でも、私を人権のある人間として撮影してくれる方とは楽しくお仕事ができました」

 私も一度だけ、某グラビアアイドルの撮影会現場に同行したことがあったが、なんとも表現しがたい異様な雰囲気だった。何十万円もするであろう立派なカメラを下げた中年男性のファンたちが、他のカメコたちとしゃべるわけでもなく、おとなしく椅子に座って待機している。同行したとあるメディアの男性スタッフも、「風俗の待合室みたい」とこそっと耳打ちしてきた。

「私がグラビアやヌードで体を晒しているのに、#MeToo運動や#KuToo運動をするのは矛盾していると批判する人もいますが、脱ぎたくて脱ぐのと脱ぐように仕向けられて脱ぐのは違いますし、セクシーな表現をする女性が社会活動をしてはいけない決まりなんてありません。

 そして、批判をする人たちって結局は自己責任論に繋がるんですよね。自己責任論を唱える人は自分自身にも厳しい傾向にあるので、自分の首も絞めることになって、本人も苦しいですよね」

 石川さんはそう続けた。ずっと聞きたくても聞けなかったグラドル界の裏側を少しだけ知ることができた。そして、そのグラドル界の問題点の構造は、多くの企業でのパワハラ・セクハラ問題や、プライベートにおけるDVやモラハラの問題とそう遠くないと感じた。「木を見て森を見ず」ではないが、性表現に携わる女性の葛藤を、自分と関係ない話として終わらせてほしくはない。

〈次回につづく〉

姫野桂(ひめの けい)
宮崎県宮崎市出身。1987年生まれ。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをして編集業務を学ぶ。現在は週刊誌やWebで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)。ツイッター:@himeno_kei

2019年6月26日掲載

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