G20直前、金正恩がもらって小躍りした「トランプ親書」の中身は?
「米軍撤収」なら大満足
現在の争点を巡り米国が譲歩したのではないとすると、別の次元で金正恩委員長が「満足」するようなアメを米国が示したことになる。
もっともありそうな「アメ」が「在韓米軍の一部撤収」だ。図表「在韓米軍撤収を巡る動き」が示すように米国は、少なくとも陸軍はいつでも撤収できる準備を進めている(「米軍は韓国からいつ撤収? 北朝鮮を先制攻撃する可能性は? 読者の疑問に答える」参照)。
これなら金正恩委員長は「それなりに満足」であろう。軍事的な脅威が大幅に低下するという実利。さらには、非核化に動く名分にもなる。委員長は国内で面子を保ちながら譲歩できるのだ。
ただ、その決断は軍との調整が必要だ。だから「慎重に考える」の表現により、少々時間がかかると表明したのではないだろうか。
トランプ大統領の示した交換条件は「一部撤収」ではなく「全面撤収」あるいは「米韓同盟廃棄」を示唆するものだったかもしれない。それなら金正恩委員長は「大満足」であろう。
あるいは6月10日に、そうした踏み込んだ提案を北朝鮮側がトランプ大統領に送った親書で打ち出していて、米国側の返答の親書が肯定的に受け入れた可能性もある。
いずれにせよトランプ親書が「米韓同盟廃棄」につながる大胆な内容だったからこそ、「トランプ大統領の政治的判断能力と並々ならぬ勇気」と、金正恩委員長が称えたのではないか。
もっとも、北朝鮮が核を完全に手放すかは怪しい。何とかして「こっそり保有」できないか、画策することになりそうだが。
「韓国人に嫌われている」
「米韓同盟廃棄」は驚くべき話ではない。トランプ大統領は就任前からこの同盟に懐疑的で、朝鮮半島に兵を置くことに意味を認めていなかった(『米韓同盟消滅』第1章「離婚する米韓」参照)。
5月8日にはフロリダでの演説で「危険な場所に位置し米国が50億ドルかけて守っているのに、たった5億ドルしか支払わない金持ちの国」と韓国を事実上、名指ししたうえ「彼らは我々を相当に嫌っているようだ」と、嫌悪感を露わにした。
米誌「THE HILL」の「Trump holds campaign rally in Florida」(動画)で視聴することができる(6分10秒過ぎから)。
トランプ大統領ならずとも、文在寅(ムン・ジェイン)政権の根っからの反米親北路線を見て、韓国との同盟に疑問を抱く米国の関係者が増えている。
2018年11月には駐韓米国大使が「同盟がいつまでも続くと思うな」と韓国人に対し警告した(「米軍は韓国からいつ撤収? 北朝鮮を先制攻撃する可能性は? 読者の疑問に答える」参照)。
2019年5月には中立的な議会調査局までもが調査報告書で「米韓の協力関係は亀裂が深まる一方で、先行きは予測できない」と書いた(「ついに『在韓米軍』撤収の号砲が鳴る 米国が北朝鮮を先行攻撃できる体制は整った」参照)。
賞味期限の切れた腐った同盟を損切りすることで、北朝鮮の非核化ができるなら安いもの――との発想が、米国内にも広がっているのだ。
「米国との同盟が諸悪の根源」と考える文在寅政権も米韓同盟の廃棄には内心、大喜びだろう。韓国の保守や普通の人々は反対するであろうが、米国に見捨てられる以上、どうしようもない(『米韓同盟消滅』第1章「離婚する米韓」参照)。
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