「おひとり様高齢者」の田舎暮らしが増加中 介護放棄の“姥捨山”という現実

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別荘地に捨てられる高齢者

 1983年に映画化され、カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞した深沢七郎の小説『楢山節考』(新潮文庫)の衝撃は、今でも色あせない。

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 貧しい時代、貧しい土地で、口減らしのために息子が母を背負い、山奥へと上がっていく。姥捨山伝説を題材とする作品は、多くの読者の涙を誘ってやまなかった。

 そして現代、田舎への移住ブームは新しい流れを引き起こし、『楢山節考』の世界を蘇らせた。なぜなら、老女だけの田舎暮らしが増加しているからだ。長野県の蓼科方面を中心に別荘物件や空き家の売買をする、ある不動産業者が言う。

「お陰様で物件の動きは活発です。ただ、移住の傾向がちょっと変わってきているんです」

 移住に適した物件はピンキリ。上限は天井知らずだが、下限も低くなる一方だ。200万円でも一戸建てが購入できるという。

「安価だからか物件は次々に売れます。引っ越しとなると、都会に住む父親や息子さんが車でピストン輸送するケースが多い。問題は、その後です。住むのがお婆さんだけなんです。お爺さんだけというのは稀です。高齢女性が圧倒的に多い。そんなケースが増えています」

 女性ひとりだけの移住者というのは、かつても珍しくはなかった。だが最近のケースは、背後に存在する事情が複雑だ。

「平均寿命の影響もありますし、身の回りのことができない人が少なくないので、まず男性の高齢者がひとりで移住するということは極めて稀です。男性の場合は夫婦で移住するケースが圧倒的ですね。そして連れ合いを亡くした女性がひとりで移住するというケースも多かったわけですが、かつては80歳が年齢の上限でした。それ以上の年齢になると、ひとりで生活することが大変になるからです」(同・不動産業者)

 ところが近年の移住者は、90歳前後の女性が目立つ。

「東京や神奈川といった首都圏では、特養や老人ホームに入居することが難しい。そこで家族が『じゃあ、田舎暮らしをさせよう』と、地域の物件を購入しているようなんです」(同・不動産業者)

 田舎で新しく、ひとり暮らしを始めた女性が散歩をしていると、どうしても徘徊に見えてしまう――そんな光景が、そこかしこで見受けられるという。

「認知症と診断されていなくても、実際にお話をすると、おひとりで暮していけるのか不安な方が少なくありません。でも、都会の施設はお金がかかる上に、入れる経済力があったとしても順番待ちで大変です。それこそ『入居待ちの間に亡くなってしまう』ことも……。そこで、施設より安く、確実に入居できる別荘物件を購入して、お婆さんに転地療養という感じで老後の生活を送ってもらおうと考えているケースが増えているようなんです」(同・不動産業者)

 こうして別荘地購入のニーズは、一気に高まっているようなのだ。同時にトラブル――それも移住者自身に起因するもの――が急増中だ。

「車もないまま高齢者を置き去りにされると、買い出しができません。今は別荘地にも生協が配達に来ますから、仮に食べ物は大丈夫だとします。しかし、冬場は石油ヒーターが必要なので、ポリタンクに灯油を入れなければなりません。これも玄関までは地元の業者が来てくれます。しかし、20リットルもの灯油タンクを80代の女性がひとりで運ぶのは無理です。タンクを持った瞬間に転倒、骨折すれば、寝たきりになってしまいます。男手がないと不可能ですよ。田舎暮らしはだからこそ、自分よりも若い人との同居か、息子や娘が近くに住んでいなければ無理なんです。おひとり様には厳しいのが田舎暮らしです」(同・不動産業者)

 他にも、こんなトラブルもある。温泉好きの“おひとり様移住者”が温泉を訪れる。そこは住民の常連客で溢れている。彼らの縄張り意識は強い。都会から移住してきた高齢者が、そこに腰を低くして入っていくことは、かなりの困難が伴うものだ。

 移住者も地元住民も共に高齢者。どちらも「いたわられて当たり前」という意識がある。だが住民にとっては、同じ年齢層であっても、移住者は新入り。いたわられるべきは地元民なのだ。ある移住者の話を聞くことができた。

「この前、温泉の更衣室で、地元の女性から『私の席に勝手に座った』と怒られて、頬を叩かれたことがありました」

 温泉だけが楽しみだった田舎暮らしで、これを機に彼女は、最寄りの温泉に通いづらくなってしまったという。

「温泉ひとつとっても、地元民と移住者との軋轢は凄まじいです。そもそも地元民同士であっても、違う集落から来た入浴者には浴槽の中に入れようとしなかったり、わざと座る場所を詰めたりと、陰険なせめぎ合いが繰り広げられています」(前出の不動産業者)

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