ココイチ創業者が「ストラディバリ脱税」で追徴5億円、識者が辛口批判

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 赤貧から身を起こし、日本一のカレーチェーンを築き上げた立志伝中の人物。といえば、篤志家としても知られる「CoCo壱番屋」の創業者・宗次(むねつぐ)徳二氏(70)である。そんな外食業界のカリスマに降って湧いたのは、バイオリンの名器を巡る「脱税」疑惑だった。

 過去のインタビュー記事には、〈生後まもなく児童養護施設に預けられ〉〈ギャンブル依存症の養父のもと、電気代も払えず、雑草で飢えをしのいだ〉等々、彼の凄絶な半生が綴られている。

 だが、逆境を撥ね除(の)けて1978年に創業したカレー専門店が大成功。「ココイチ」の売上高は500億円を超え、国内外に1481店舗(今年5月末現在)を展開するまでに成長した。

 一方、貧困に喘いだ宗次少年の心を癒したのは、テレビから流れるNHK交響楽団の演奏だったという。

 経済部記者によれば、

「53歳で経営から手を引いた宗次さんは、その後、趣味のクラシックを通じた社会貢献に乗り出します。2007年には28億円の私財を投じて名古屋市に“宗次ホール”を建設。愛知県内の学校に楽器を寄贈したり、希少価値の高い楽器を購入して五嶋龍をはじめとする若手音楽家に無償貸与してきた。彼を理想とする経営者は少なくありません」

 しかし、「美談の人」をあろうことか、「脱税」疑惑が襲ったのである。

「宗次さんの資産管理会社が昨年、名古屋国税局から約20億円の申告漏れを指摘されたことが発覚したのです。追徴課税額はおよそ5億円。問題となったのは、1丁10億円は下らないストラディバリウスのバイオリンなど、無償貸与していた高価な楽器を減価償却していたことでした」(同)

「論外の行為」

 国税庁OBの鈴木修三税理士によれば、

「分かりやすく言うと、仮に30万円で購入したバイオリンの耐用年数が5年なら、1年あたりの目減り分である6万円を経費として計上できる。これを減価償却と呼び、節税に繋がります。ただ、国税局の基準で100万円を超える美術品はその対象外。ストラディバリウスのように年月を経て価値が上がる楽器は経費化できません」

 宗次氏は「税務処理のミス。税理士に法的措置も検討する」と釈明したが、著書にはこう記しているのだ。

〈新聞で知る限りでは、脱税、所得隠し、申告漏れが多発しています。この数の多さにはがくぜんとするばかりです。私はこの論外の行為に対し、追徴課税率、重加算税率を上げられないものかと考えます〉

 彼の言葉を借りれば、ご自身も「論外の行為」に手を染めていたわけである。

 税理士の浦野広明氏の反応も「辛口」だ。

「素人が税理士に一任するのと、経営実績や社会的地位のある上場企業の元社長が依頼するのとでは事情が違う。依頼者が無理を言って、税理士が従った可能性も否定できません。すべての責任を税理士に押しつける態度には問題がある」

 カレー、もとい、華麗な篤志家人生の後味は、決して甘いものではなかった。

週刊新潮 2019年6月20日号掲載

ワイド特集「秘すれば花」より

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