スケベ全開だが女性に嫌な思いをさせない秀作ドラマ「やじ×きた」「癒されたい男」

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 出ている役者は好きだが、ドラマ自体には特に心惹かれるわけではないので迷っていた。が、この連載の担当編集M(20代女性)の衝撃の告白「松尾諭(さとる)が好きです」で、書く決意をした。BSテレ東「やじ×きた 元祖・東海道中膝栗毛」である。

 弥次さん・喜多さんの珍道中はおなじみだが、へそから下の話にこうるさい粘着質の小姑が目を光らせている今のご時世に、まさかの「スケベ全開な展開」という暴挙と勇気を称えたい。売れない絵師の弥次さんを演じるのが松尾諭、元役者で芸達者の喜多さんは和田正人が演じている。ふたりとも、基本スケベで女好き。道中、何かにつけては色を求めて、騒動に巻き込まれたり巻き起こしたり。なぜかふたりともそこそこ腕っぷしが強く、お互いに裏切ったり繋がったりで、最終的には人助けする人情噺だ。ふがいない松尾をお伊勢参りに送り出す妻に安藤玉恵など、キャスティングも好み。京都で活躍する手練(てだ)れの脇役陣も、舞台をぐっと引き締めている。

 和田の柔軟な顔芸と松尾の体を張ったドタバタ芸をメインディッシュとして観られる作品は珍しい。キャリアの長さと人の好さ(勝手に推測)で、名バイプレイヤー枠にいるふたりが主軸というのが素直に嬉しい。

 武士の魂だ本懐だ、殺陣(たて)や刀捌きがどうだと余計なツッコミ一切不要。とにかく明るく、目的はただひとつというスケベの清々しさ。エロスにまでは到達しないスケベ時代劇に、なんだか懐かしさも覚える。スーパーヒーローの勧善懲悪ではない、良い意味での軽薄な弥次喜多道中は案外楽しい。異なる人生展望の女(姫と女郎)をうまいこと交換した6話が好きだったなぁ。

 ついでに今期もうひとつ、スケベ全開の作品があるので触れておく。こちらもキャリアが長く、個人的には二枚目枠と思っているのだが、三の線に完全に追いやられている鈴木浩介が主演の「癒されたい男」(テレ東)だ。中間管理職の悲哀とともに、おじさんの性的妄想だけで物語に仕立て上げる、強気だか弱気だかよくわからないドラマである。

 有能だが、女王様気質で塩対応の部下(宇野実彩子)と、致命的なミスをしても謝らず&落ち込まずの部下(高崎翔太)、ノルマとダジャレを押し付けてくる上司(半海一晃)(はんかいかずあき)に苛まれる日々の浩介。心の癒しは、日常で見かける女性たちを相手に、勝手な性的妄想を展開すること。彼女たちに安直な名前をつけて、煽情的な妄想にふける浩介を、どう見守ったらよいやら。元カノも大々的に幸せな結婚を発表し、ちと複雑な思い。しかし妄想は自由だ。その女性たちに嫌な思いをさせてはいない。そこ大事。産婦人科での妄想はさすがに気色悪いが、しみったれた浩介ならほぼ無害の位置づけに。

 こうして、今期スケベの皮を被った(被らされた)和田・松尾・浩介だが、決して全女性を敵に回してはいない。スケベつながりで描いちゃったけど、全世界の女性を敵に回したのは、ファンを性のはけ口に利用した原田龍二だと思う。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年6月20日号掲載

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