米国にとって北朝鮮は狂信的なカルト集団、“先制核攻撃”があり得るこれだけの根拠

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世界的な核戦略の一環

――日本やグアムに向け撃って来るミサイルはどう防ぐのですか?

鈴置: それらが発射されるのを防ぐために米国は核を使うわけです。核兵器なら広範囲を確実に破壊できるからです。それでも発射されたものがあれば、日米の「ミサイルを落とすミサイル」でもって防ぎます。

――核弾頭搭載可能の巡航ミサイルの配備は本気なのですね?

鈴置: 思い付きではありません。米国の世界的な核戦略の一環です。2018年2月、国防総省は「Nuclear Posture Review」(NPR=核戦略見直し)を発表しました。

 NPRの2018年版にはちゃんと「米国は短期的には小威力の核弾頭をも搭載できるよう、少数のSLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)を改造する。長期的には核弾頭を搭載した新たなSLCM(海上発射型巡航ミサイル)を配備する」(ページXII)と書かれています。

 この報告書の「要約・日本語版」が「海上発射」型と訳しているのでそれに倣いましたが、水上艦だけでなく潜水艦から発射する巡航ミサイルも含むと思われます。原文には「sea-launched cruise missile」とありますから。

「核による脅し」を防ぐ

 配備の目的は「ロシア、中国、北朝鮮など核保有国から脅されかねない同盟国に安心感を与えること」です。仮想敵が核を背景に政治的な要求を突きつけたり、侵略してくる可能性が高まっている。

 同盟国は脅しや侵略に屈するかもしれない。あるいは自ら核武装に走るかしれない。米国が核兵器で報復してくれる、との確信が持てないためです。

 米国の核兵器は戦略核が中心で、下手に使うと大国が核ミサイルを撃ち合う最終戦争を引き起こしてしまう。同盟国はそれを念頭に「ワシントンやNYを攻撃されるリスクを冒してまで、米国が核を使って報復してくれるのか」と疑います。

 そこで米国は威力の小さい「戦術核」――米国は「戦域核」と呼び始めましたが――を配備し、仮想敵が「核を使うぞ」と脅してきたら「それならこっちも使うぞ」と言い返せる体制を整えているわけです。

 日本人は「核兵器」と「通常兵器」とで区分します。でも、米国の専門家の間では「戦略兵器」と「戦術兵器」で分ける考え方が一般的だそうです。つまり「威力の小さい核」は「戦術兵器」であり、「核」とはいえ使用のハードルが低い。

「極限状況」なら核で先制

――なぜ、海から発射する「戦域核」なのでしょう。

鈴置: 地上から発射する核ミサイルや、爆撃機に載せる核爆弾は使い勝手が悪い。日本は核兵器の持ち込みを拒否しています。

韓国の保守の一部は戦術核の再配備を求めていますが、文在寅(ムン・ジェイン)政権が反対するのは確実です。北朝鮮の顔色を見て、在韓米軍さえ、追い出そうとしているぐらいですから。

 それに海から撃つミサイルなら、艦船に載せて容易に動かせます。例えば、南シナ海から朝鮮半島周辺海域にすぐに持って行けるのです。

――核による先制攻撃は許されるのですか?

鈴置: この報告書――NPRの2018年版は以下のように書いています。

・米国は、米国と同盟国、パートナー国の利益を守るにあたって極限的な状況にある際にのみ、核兵器の使用を考慮する(ページVIII)。

 要は、北朝鮮が核を使おうと使うまいと、米国が「極限的な状況」と判断すれば核を使う、ということです。

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