私はこうして「ひきこもり地獄」から脱却した――“生還者”が明かす実体験

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「肩書き」を持つこと

「私は18歳の後半から24歳まで、完全にひきこもっていました」

 と、続けて現在31歳の男性が証言する。

「機械工場で働いたものの、コミュニケーションをとるのが苦手だったので、同僚から『知的障害なんじゃないの』などと言われ、他人と接するのが怖くなった。5カ月で辞めて完全なひきこもりが始まりました」

 彼は『完全自殺マニュアル』を読むところまで追い詰められながらも、

「自分を変えられないかとも考え続けていました。そこで、誰にも会わなくて済む通信制の放送大学に入ってみることにしたんです。これが大きなきっかけとなりました。大学生という『肩書き』が持てたことで心の持ちようが変わり、外に出やすくなった。『無職で話すことが何もない』のと、『年齢的に遅れていますが大学生なんです』と言えるのとでは、気分が全く違うんです」

 自ら大学に入ろうと思えたこの男性は、ひきこもりの中でも「軽い」ほうと言えるのかもしれない。だが彼の話は、ひきこもりの人にとって肩書き、つまり社会と接点があると思えることがとても重要なのだと示唆していると言えよう。

〈死に至る病とは絶望である〉(キェルケゴール)

 孤立という名の絶望。この病をいかに遠ざけるかが、現代日本社会に重く突き付けられている。

週刊新潮 2019年6月13日号掲載

特集「あなたの隣にいる 『中年ひきこもり』の正体」より

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