吉田輝星は大谷翔平のごとく輝けるか、斎藤佑樹のように沈むのか

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「チケットが売れた“瞬間風速”はダルビッシュ有や大谷翔平の時と同じだった」

 日本ハム関係者が言うには、栗山英樹監督が吉田輝星のプロ入り初先発を明言してから、チケットが売れに売れたようだ。昨年の夏の甲子園で、金足農業を決勝戦まで導き、一躍、時の人となった吉田。一軍での初登板となった6月12日の広島戦で、5回1失点に抑えて、プロ初登板初勝利を飾った。

「成長していると感じる部分もある。真っ直ぐでカウントを取りに行く時、8割くらいで投げても高校時代より球に力があると感じる時もある」

 登板前日、成長した点としてあげたストレートだったが、初登板の立ち上がりは苦労した。最速150キロを超えると言われる球速は、140キロ台中盤にとどまる。この日、先頭に入った長野にいきなりライト前ヒットを打たれ、続く菊地には、ストレートがカット気味に決まったようにみえたが、ボール判定が続き四球。バティスタはサードゴロに打ちとるも、4番鈴木にも四球を与えて、いきなり満塁のピンチを迎える。ここで左打者の西川が打席に入る。

「技術や体力じゃなく、投手としてやるべきことができる。自らを客観的に見るとか。その点は、吉田はズバ抜けている」(メジャーリーグのアジア地区担当スカウト)。吉田は、コンディションが悪くとも、甲子園の決勝戦まで勝ち抜いた投手。窮地を乗り越える「振る舞い方」を知っている。その強みを大ピンチでみせつけた。

 左打者に対しては、ストレートが決まることを瞬時に察知して、西川には直球勝負を挑んで三振を奪う。さらに、続く右打者の磯村には、緩い変化球を活かして、サードゴロに打ちとった。その後も、右打者に対してのストレートは外角寄りでなく、多少、甘くなっても高めに投げた。腕が強く振れ、カット気味ではなく、球が打者の手元で伸びるような軌道を描く。三回、鈴木がライトフライに打ちとられた球について、「あまり見たことない、伸び上がってくる感じ」と話していたが、それを物語っている。

 そして、緩い変化球を多投し、フォークをチェンジアップ気味に使って勝負する。空振りを狙うのではなく、タイミングを外すことを主眼においたようだ。そうすることで、三振は4つながらも、アウトカウントを積み重ねた。

 吉田に対して常に厳しい、荒木大輔二軍監督は、春のキャンプの時にこう評していた。

「吉田はいい素材。でも、僕の1年目はあんなヘボじゃなかった。もっと投手のピッチングはできていた。高校時代の良い投球、状態に戻すこと。プロの投手としてのステージに行くのはそれから」

 早実時代、甲子園のアイドルとして騒がれた荒木二軍監督は、同様に甲子園でヒーローになり、大きな話題を呼んだ吉田を大切に育てようとしている。その初登板は、ヤクルト時代の83年5月19日の阪神戦で、5回3安打無失点で初先発初勝利をあげた。試合後には「甲子園とは比べものにならないほど緊張した」と語った。くしくも、吉田の初先発も、荒木二軍監督のそれと似たような結果だったが、コメントは実に対照的だった。

「初めての1軍マウンドで、試合開始から雰囲気は違うなと思いました。それでも、緊張はあまりせずに、初回から投げられました。しっかりと指にかかった真っすぐはファウルが取れたし、後半は多少コースが甘くなっても、うまく空振りも奪えました。初対戦ということもありますが、自分の真っすぐはある程度通用したのかなと思います。一回、二回とピンチもありながら最少失点でしのいで、三回以降はリズムよく投げられました」(吉田)

 登板後はいつもの強気なコメント。自信を持っていたストレートには苦労もさせられたが、譲れないプライドも垣間見せる。そして何より、吉田が生まれ持つ「プロ向きの性格」、そして「メンタルの強さ」が伝わってくる。

 だが、手放しで喜んでばかりもいられない。その投球内容をみると、リズムは決して良くなく、まだ先行き不透明ともいえる。毎年、多くの新人がプロ入りするが、長く活躍する選手は一握り。同じ日本ハムには、夏の甲子園や東京六大学で大活躍して鳴り物入りでプロ入りしたものの、伸び悩んでいる斎藤佑樹もいる。

 吉田はダルビッシュや大谷のような球界を代表する投手に成長できるのか、それとも斎藤のように「期待外れ」に終わるのか、その答えが出るのはまだ先だ。

 この男は果たして“本物”になれるのだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2019年6月13日掲載

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