未だ不振が続く「鳥貴族」、上場後初の赤字の原因は“1品18円の値上げ”ではなかった

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陳腐化した鳥貴族

 経済評論家の加谷珪一氏はニューズウィーク(電子版)の連載「経済ニュースの文脈を読む」(17年9月)で、「値上げに踏み切った鳥貴族が直面する『600店舗の壁』とは?」のコラムを掲載した。

《実は居酒屋の業界には店舗数が600店舗付近に大きな壁が存在しており、この壁を乗り越えることは実はそう容易ではないのだ。

 鳥貴族の躍進が話題になる以前、勢いがある居酒屋チェーンといえば「ワタミ」であった。ワタミは現在の鳥貴族と同様、ハイペースで業容を拡大してきたが、2014年を境に業績が悪化した。2014年と言えば、同社の店舗数が過去最大の約650店舗になった年である》(註:中見出しを省略した)

 居酒屋という業態自体が、厳しい状況に置かれている。日経MJは5月29日、「外食、値上げ組が好調 35社4月既存店、20社が増収」という記事を掲載した。

 だが、記事のどこにも居酒屋チェーンについての言及はない。その理由は、存店の売上高における前年同月比の増減率を見てみればすぐに分かる。

 千葉氏は「消費者は、ファーストフードのような食事を提供する店より、アルコールを出す店のほうに、より個性を求めます」と指摘する。

「つまり居酒屋は、600店の壁をなかなか超えられない傾向が顕著になっています。ワタミの関係者に取材したことがありますが、600店舗を超えると『ワタミに行こうよ』が『どこも満席だからワタミにするか』に変わったそうです。街のどこを見てもワタミしかないと、ワタミが無個性に感じられ、他の居酒屋に埋没してしまうわけです。それと全く同じことが、鳥貴族で起きている可能性があります」

 かつて鳥貴族は「3商圏1000店舗」を中期経営目標に掲げていたが、これは現在、取り下げられている。千葉氏も「居酒屋1業態による直線的な成長で600店舗の壁を越えるアプローチは不可能な時代になったと見るべきでしょう」と言う。

 となると、鳥貴族の“再建”に必要なのは、「店舗網の縮小」と「新しい業態の開発」だろう。それもトンカツやハンバーグという完全に新しい分野に挑戦するよりは、鶏肉に軸足を置いたほうが経営の効率化が期待できる。例えば、唐揚げや鳥鍋というイメージだ。

 誰もが納得する経営再建のビジョンだろうが、これに真っ向から反論している人物がいる。誰あろう、鳥貴族の大倉忠司社長だ。

 大倉社長は今年4月、読売新聞のインタビューに応じ、「鳥貴族値上げ『将来へ必要』大倉社長 労働環境重視 追加実施も」の記事として掲載された。ポイントは「追加の値上げもあり得る」という強気の発言だ。その部分を、まずご紹介しよう。

《大倉氏は値上げについて「失敗とは思わない。労働環境を良くしなければ、外食産業に将来はない」と振り返った。さらに、現在は1000円前後のアルバイトの時給を、将来的には1700~1800円に引き上げることを目指すとした。「市場の動向も踏まえ受け入れてもらえるなら」と、追加値上げの可能性も示唆した》

 更に大倉社長は急激な店舗数の膨張により「自社競合が起きた」とし、新規出店の計画を見直すと言明。しかしながら、“焼き鳥居酒屋”という業態には強いこだわりを示している。

《焼き鳥居酒屋という業態については、「別業態は作らず、全品均一の価格も守る」と強調》

 つまり「唐揚げ鳥貴族」や「鳥の水炊き鳥貴族」という別チェーンは作らないということだ。さて、大倉社長の経営方針は吉と出るか凶と出るか――?

週刊新潮WEB取材班

2019年6月13日掲載

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