米軍は韓国からいつ撤収? 北朝鮮を先制攻撃する可能性は? 読者の疑問に答える

  • ブックマーク

本性を現わした文在寅政権

――文在寅政権はなぜ「馬耳東風」なのでしょうか。

鈴置:「確信犯」だからです。文在寅政権の中枢部は「民族を分断する米帝国主義と戦おう」と考える親北反米の活動家出身で固められています(「米韓同盟消滅」第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。

 彼らにとっては米国との同盟は唾棄すべきもの。米国から「打ち切るぞ」と言われても痛くも痒くもない。むしろ米国側から廃棄してくれればしめたものです。

 そうなれば韓国の親米派も文句は言えないからです。もし、文在寅政権が「打ち切る」と言い出せば、青瓦台(大統領官邸)はデモの群衆で取り囲まれるでしょう。

 それに加え、今やお家存亡の危機。親北派の心の祖国である北朝鮮では制裁による食糧難がひどくなる一方です。金正恩政権の将来を見限って亡命する指導層が相次ぐ。米国が何と言おうと今、北朝鮮にドルと食糧を送らねばならないのです。

 だから文在寅政権は6月5日に800万ドルの対北援助を決めた。人道支援の名目で国連経由です。が、このおカネで購って北朝鮮に送られた食糧が飢えた子どもたちではなく、軍に回る可能性が高いと国際社会は見ています(「文在寅は金正恩の使い走り、北朝鮮のミサイル発射で韓国が食糧支援という猿芝居」参照)。

 さらには、国連は経由せずに直接、北朝鮮にコメなどの食糧を送る計画にも動いています。文在寅政権は本性を現わしたのです。

「撤収」は早ければ今秋

――「本性を現わした」国を米国が見捨てるのも無理はない……。

鈴置:これまで我慢を重ねてきた米国の堪忍袋の緒も、ついに切れました。裏切り者を助けるために、自国の兵士や家族の命を危険にさらすバカはいません。

 そこで6月3日、米韓連合司令部をソウルの韓国国防部ではなく、南方の平沢(ピョンテク)のキャンプ・ハンフリー(Camp Humphreys)に移すことを韓国に呑ませたのです。同時に連合司令部の司令官ポストも韓国側に委譲することに合意しました。

 いずれも在韓米軍、厳密に言えば米陸軍撤収への一里塚です(「ついに『在韓米軍』撤収の号砲が鳴る 米国が北朝鮮を先行攻撃できる体制は整った」参照)。

――「在韓米陸軍の撤収」はいつになりますか?

鈴置:それは「韓国軍の戦時の作戦統制権をいつ、韓国側に返還するか」という質問とほぼ同じですが、答は「早ければ2019年秋、遅くとも2022年5月」です。「現状から見て」との但し書きが付きますが。

 「早ければ」の方は韓国各紙が「2019年8月に実施する米韓合同の図上演習で初めて韓国側が司令官を、米軍側が副司令官を務める。この演習で韓国軍が自立できるかを検証する」と報じているからです。「検証」が終われば、返還を妨げるものはなくなります。

 「遅くとも」の方は「2022年5月までの文在寅大統領の任期中に戦時作戦統制権を返還する」と米韓が約束しているからです。

 撤収時期は北朝鮮の非核化により左右されるでしょう。トランプ政権は米軍撤収、あるいは米韓同盟の廃棄を非核化との取引カードに使うつもりです(「米韓同盟消滅」第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。

 ただそれは、北朝鮮が非核化に素直に応じた時の話。いつまでたっても応じない場合、あるいはICBM(長距離弾道弾)の試射などの挑発に出た場合は、北の攻撃にさらされる一方で攻撃能力に乏しい陸軍を撤収したうえで空爆、ということになる可能性が高い。つまり、先制攻撃を実施するケースです。

イランへ濃縮ウランを密輸?

――米朝対話が一応続いているのに「先制攻撃」とは……。

鈴置:水面下では緊張が高まっています。北朝鮮がレッド・ラインを踏み越えた――国連制裁を破ったからです。まずは5月の2回にわたる弾道ミサイル発射。

 もっと米国が神経を尖らせているのが、濃縮ウランとプルトニウムなど核兵器の素材を中国経由でイランに輸出したとされる事件です。制裁で経済難に陥った北朝鮮が外貨稼ぎのため、密輸に手を染めたと言われます。

 メディアではほとんど報じられていませんが、安全保障関係者とコリア・ウォッチャーの間では「常識」になっています。

 核関連物資の輸出も核・ミサイル実験と並ぶ国連制裁の対象です。最近、米国がイランに対し強硬になったのもこれが一因と見られています。

 安倍晋三首相が6月12日からイランを訪問するのと関係するのかもしれません。イランと北朝鮮は核とミサイルを共同開発していると見なされてきました。北朝鮮の非核化にはイランへの説得がカギとなりうるのです。

――そもそも、先制攻撃は許されるのですか?

鈴置:いいご質問です。それは米朝の間で緊張が高まった2016年頃にかなり突っ込んで議論されました。説明にはやや時間がかかります。

――では、その話は次回に。

(次回は6月12日掲載予定)

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年6月11日掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。