「久保建英」が代表デビューでファンを魅了、サッカーメディアの見出しは的外れ
コパ・アメリカでの不安
それでも久保は、初の代表戦で緊張していたのではないかと思う。それというのも彼が飛び級により中学3年でJ3 にデビューした時から取材しているが、その当時の久保は、DFのマークを受けながらマーカーがフッと気を抜いた瞬間に少し戻ったり、横にスライドしたりしてフリーになった瞬間には、手のひらを上に向けて「ここにパスが欲しい」と要求することが多かった。
それはJ3時代に比べ、今シーズンはJ1リーグの主力になったため減ったものの、それでも自分のタイミングでパスを要求するポーズは相変わらずだった。ところが代表デビュー戦となったエルサルバドル戦では、そうしたシーンが皆無だった。「やはり代表戦では緊張したのかな」と感じたものだ。
それでも相手が格下のため、余裕のプレーが随所に見られた。しかし、FC東京のファン・サポーターなら、日常のJ1リーグから久保はもっと凄いプレーを演じていることを知っている。「スタジアムでどよめき」を起こしたり、「スタンドを魅了」したりしたのは、エルサルバドル戦の比ではない。
ただ久保が代表デビューを飾ったので、そう書かざるをえないスポーツ紙などのジレンマも理解できる。久保の凄さを実感したいなら、FC東京の試合に足を運ぶことだ。とはいえ、久保とFC東京との契約がいつまでなのかは明らかになっていないため、コパ・アメリカ後の去就は明らかではない。そこは悩ましいところだ。
ドリブル突破はもちろんのこと、特筆すべきは、普通の選手なら力んでしまうゴール前での冷静なフィニッシュ。加えて、スタンドがどよめくパスセンスなど、意外性に富んだプレーの数々は、「お金を払っても見に行く」価値のある選手だ。
そんな久保が今シーズンに身につけた最大の武器は、スピードである。相手のチャージを体でブロックするのではなく、初速の速さでかわし、素早くトップスピードに乗って置き去りにするプレーだ。
今シーズンの久保の飛躍を、多くのメディアは「体ができてきて相手の激しいチャージにも耐えられるようになった」とか「体ができてきたため守備力が向上した」と評価した。確かに成長期で逞(たくま)しさを増し、体幹の強さに加え、接触プレーでは相手のパワーを跳ね返すのではなく吸収する柔軟性も随所で披露している。
しかし、今年2月のFC東京の沖縄キャンプを取材して感じたのは、昨シーズンと比べてすべてのプレーでスピードアップしたことだ。昨シーズンまでは、マーカーの逆を取ったり、フェイントで抜いたりしても、相手に体を寄せられ潰されていた。そこで「フィジカルの弱さ」を指摘された。
ところが今シーズンは、抜いた後のスピードが格段とアップし、相手が体を寄せようにも、すでに手遅れの状態になっている。そして2~3歩でトップスピードに入り、マーカーを置き去りにする。このスピードこそが、今シーズンの久保の最大の武器だ。エルサルバドル戦では見られなかったが、相手コーナーキックをブロックして久保につなぎ、自陣からの単独ドリブルによるカウンターも、FC東京の大きな武器だ。
「久保がボールを持って前を向いたら、懐が深いためボール奪取は難しい」というのが、今シーズンのJ1リーグで対戦したDFの共通認識でもあるだろう。今シーズンのFC東京は、ここまで10勝3分け1敗で首位をキープしている。
初黒星を喫したのは第13節のセレッソ大阪戦だが、この試合では久保がボールを持つ前に背後から反則まがいのチャージで止めに来た。0-0のドローに終わった第10節のガンバ大阪戦でも、久保はハードマークに苦しめられた。久保を止めるには反則覚悟のプレーが必要というのが前半戦のJ1リーグだった。
果たして久保は、コパ・アメリカでどんなプレーを披露するのか。3年前のリオ五輪で日本は、グループリーグで敗退したものの、左サイドを主戦場にする中島翔哉は得意のドリブル突破で対戦相手を翻弄し、地元ファンから喝采された。
たぶん久保も、いつも通りのプレーをすれば、目の肥えたブラジルのファン・サポーターから高評価を得るだろう。気になるのは、パラグアイで開催され日本が初めて参加した1999年のコパ・アメリカを取材した時のこと。相手を翻弄するプレーをしたら、悪質なファウルで仕返しをするという南米気質のプレーだ。
2017年のルヴァン杯で対戦したコンサドーレ札幌の天才的MF小野伸二は、「僕とは全然比較にならない。ケガをしないことだけに気をつければ凄い選手になる」と絶賛した。コパ・アメリカでの活躍を楽しみにしつつ、くれぐれもケガには気をつけてほしい。
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