令和初の真打「瀧川鯉斗」は落語界一のイケメン、元暴走族リーダーという意外な過去

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「タイガー&ドラゴン」を地で行く

鯉斗:その時、師匠は「芝浜」をやったんです。たった1人で何役も演じ分ける芸能というものはすごいと思いまして、その日の打ち上げの席で師匠に「弟子にして下さい!」と。

――は、早い!

鯉斗:出会っちゃったんですね、うちの師匠に。僕に弟子志願された師匠は「お前、落語、知ってるか?」、僕は「いえ、知りません」。すると「新宿、浅草、池袋に寄席っていうところがある。そこが仕事場だから通ってみて、それでも良かったら来い」と言っていただいたんです。

――ちなみに都内にはもう1軒、上野にも寄席があるのだが、鯉昇師が所属する落語芸術協会の噺家は、上野には出演していない。

鯉斗:もちろん僕は、協会が2つあるなんてことも知りませんからね。「上野を教えたら落語協会の弟子になっちゃうかも」って思ったんでしょうか。ともあれ3カ月くらい新宿の末廣亭に通いまして、師匠の家に行きました。スーツを着てね。「寄席に行ってきました」と言うと、師匠は「あそこが仕事場になる。いいか?」。「はい、大丈夫です」と答えると、翌日から師匠の家に通うことになったんです。

――そこから1年以上、師匠の元に通ったわけだ。

鯉斗:新聞紙を丸めて棒を作って、太鼓の稽古から始まりました。寄席が開く時に打つ一番太鼓をマンツーマンで習いました。でも、師匠も久しぶりなんで、間違えちゃったりしつつ……。それよりも、人として教わることのほうが多かったですね。テーブルに鞄をドンと置いたりすると、「ここはご飯をいただくところだからそんなところに置くな」とか、「畳のへりは踏むな」「コートを着っぱなしで挨拶はするな」とか。うちの師匠は遅刻を嫌うんですが、僕は幸いにも体育会系と暴走族で縦社会には馴染んできたので、遅刻は一度もありません。師匠からは「暴走族は偉いな。時間厳守で」と言われましたよ。着物の畳み方も時間がかかりましたが、上げて(合格にして)もらって、いよいよ噺を教わることに。最初は「新聞記事」というネタでしたが、これがなかなか覚えられなくて……。

――「新聞記事」は長く演じても15分程度の短い話である。

鯉斗:3カ月くらいかかりましたかね。家でも練習して、ようやく覚えたと思って、師匠のお宅に伺って聴いてもらったんです。「よく『付け焼き刃ははげやすい』なんてことを申しますが……」というマクラがあるんですけど、何を勘違いしたのか「付けまつ毛は取れやすいと申しまして……」とやったら、「おいおい、ストップ。オレはそんなこと教えてない。けど、合ってる」と。それで、上げてもらって、それからしばらくしてですかね。僕が稽古場にいると、師匠が紙を持って入ってきた。「お前の名前、決まった。2つあるけど、どっちがいい?」と。紙には“鯉鯉”と“斗茂”とあったんで、師匠は鯉がつきますから、“こいこい”がいいかなと思って、「こっちで」と指さすと、「お、“こいも”か!」と嬉しそうなんです。「え? 師匠、“こいも”って何ですか?」、「え、日本語知らない? 日本語は縦読みです」。2つの候補は“鯉斗(こいと)”と“鯉茂(こいも)”で、僕は横に読んでいたんですね。それで「すいません、鯉斗でお願いします」と。師匠は鯉茂を気に入っていたんですが、ずーっとなり手がいなかったので残念そうでしたね。

――高座名を戴いて、05年春、前座として寄席に楽屋入りするようになる。

鯉斗:ちょうどテレビで、長瀬智也さん(40)が噺家になったヤクザを演じた「タイガー&ドラゴン」(TBS)の放送が始まりまして、ドラマには兄弟子役で(春風亭)昇太師匠(59)も出演された。そういうこともあって、「長瀬さんの役柄のモデルは鯉斗じゃないか」と楽屋で噂になったんです。僕がモデルなのかもしれないですよ、いや僕ですね!

――ヤクザではないが、暴走族(しかも総長)上がりの噺家というのは、長い落語界でも史上初だろう。

鯉斗:(三遊亭)小遊三師匠(72)は、楽屋入りした僕を「人を殺しそうな目をしている」と思ったそうです。「お前、前座のうちは笑ってろ!」と言われまして、ニコニコするようにしました。それで「付いてこい」と言われ、地方にも連れて行ってもらいました。

――悪人顔として名高い小遊三師匠に、人相が悪いと指摘されるとは。

鯉斗:新幹線がホームに入ってきて、シューッとドアが開くじゃないですか。その時に両手広げて一般のお客さんを止めて、「師匠、どうぞ!」ってやったら、小遊三師匠「俺はヤクザじゃねんだからな! 芸人は一番後だ」と。そういうことも教わりましたね、ありがたいです。

――「タイガー&ドラゴン」そのままである。小遊三師匠とは地元名古屋にも行ったという。

鯉斗:まだ改装前の大須演芸場でしたが、1日だけ僕の仲間で埋まっちゃったことがあったんです。僕が高座から戻ると、小遊三師匠から「お前が出るとよ、黄色い声援が上がるかと思ったら、ドス黒い声が聞こえてきた」とか、「お前の友達よ、ランニングばっかだな」と。「ウォー!」ってランニング着てやってましたからね。そんな奴らだから、落語を聴かせても「総長、すごいッすわ」とは言っても、おそらくわからないわけですよ。そんな中、小遊三師匠は高座に上がると、「わかるか? 今こういうところで……」と噺の解説をしながら演じてました。

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