川崎20人殺傷事件 「エリート標的」と「拡大自殺」に見る宅間守への崇拝

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 神奈川県川崎市の登戸で発生したスクールバス襲撃事件。弁護士の娘である11歳女児と、働き盛りの39歳外交官が犠牲となった。犯行は、エリートの卵だから狙ったという51歳引きこもり男によるもの。そこには池田小事件の宅間守への崇拝がありありと見て取れるのだ。

 5月28日午前7時ごろ。神奈川県川崎市麻生区内の一軒家の前。

 ゴミ捨てに出た女性は近所に住む男から、「おはようございます」と声を掛けられた。普段は引きこもりで全く話すことはなかったのに……と不自然さを感じつつ、男の姿を目で追った。駅の方へ走って行った男は、坊主頭に黒縁眼鏡、黒のポロシャツ、黒ジーンズ姿。そして黒っぽいリュックを背負っていた。その中に、細くて長い柳刃の包丁4本を忍ばせていたことをこの女性は当然知る由もない。

 男は45分後、そこから5キロ離れた川崎市登戸の路上に立ち、スクールバスを待つ児童らを襲う機会を窺っていた。「ぶっ殺してやる」の言葉と共に手にした包丁で襲撃、小学6年生の女児ら2人が死亡、18人が重軽傷を負った。その男、岩崎隆一(51)は凶行後に自分の首を切り、病院へ搬送後に死亡が確認された。捜査関係者によると、

「右耳の下から喉にかけて4センチくらいの幅でパックリ皮がめくれ、骨が見えている状況でした。顔は血だらけで硬直し、家族は“本人ではない気がする”と話したほど。結局、指紋による鑑定をしたのです」

 現場近辺に住む60代の女性は、惨劇を目の当たりにしていた。

「自転車で近くを通っていたら“ぎゃー!”という叫び声が聞こえました。(その子は)恐らくスクールバスに乗り込む途中で刺されたようで、何人かは既にバスに乗り込んでいました。刺された生徒は動けなくなって、白い夏服がだんだんと血で赤くなっていきました。子供たち同士で“頑張らなきゃ!”と励まし合う声が聞こえました」

 バスの行先はカトリック系の「カリタス学園」。カリタスとはラテン語で「愛」の意。非常時にも児童が校是を実践し、他者を思いやる言葉をかけあっていたことに心震える。

 学園は1961年、カナダ・ケベックの修道女会から派遣されたシスターによって設立された。幼稚園、小学校までは共学、それ以降は中高一貫の女子校となる。東京・九段の白百合学園同様、中学から必修でフランス語を教えてきたという。

 小学校に通う約700名のうち男子は1割ほど。彼らの一部は開成や慶応など、超難関中を目指す。

 ターゲットはエリート養成校とも言うべき名門校。現場は学校とスクールバス。逃げようにもままならぬ閉鎖空間で児童らに突進して躊躇なく刺していく……。その犯行から頭を過(よ)ぎるのは、2001年6月、大阪教育大附属池田小を襲った宅間守のことである。小学1年生1名、2年生7名が死亡、負傷者は15名にのぼったのみならず、多くの関係者は心に深い傷を負ったままだ。

 宅間は犯行前、周囲に「仕事もカネもない。やけになっている」とこぼしているし、宅間の父親は当時、息子をこんな風に評していた。

「あいつは自分の立ち位置の認識が全くできん奴で、物事がうまくいかんと人のせいにしたがるんや。性格は病的で偏執的やけど、病気とは違う。責任能力はあるよ。(中略)この前、京都であったバスジャック事件もあいつとちゃうか、と最初は疑った。世間の耳目を集める事件はみな守か、と思ってしまうんや」

 宅間が凶行に及んだのは6月8日。本州が梅雨入りを待つという季節までもが似通っているのだ。

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