世界一高い薬のお値段「2億3千万円」は適正価格か否か

ドクター新潮 医療

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 難病の一種・SMA(脊髄性筋萎縮症)は運動神経が働かなくなり、全身の筋力がどんどん衰えてゆく病気だ。遺伝子の異常が原因で、特徴的なのは小児期に発症しやすいことだ。

 国立病院機構八雲病院診療部長の石川悠加氏が言う。

「SMAでは赤ちゃんの首がいつまで経ってもすわらないとか、寝返りが出来ないなどの変化が次第に現れてきます。他の子供と比べて発達が遅いので調べてみたら、SMAだったというケースがあります」

 SMAと診断された子供の運命は過酷だ。最初は力が弱いぐらいのレベルだが次第に食べ物が飲み込めなくなり、痰を吐くことも難しくなる。やがて自発呼吸も難しくなり、人工呼吸器が外せなくなる。乳児期から小児期に発症するのは10万人に1~2人と多くはないが、SMAでも重症とされる「I型」だと、2歳まで生きられないと言われているのだ。

 そんな難病の特効薬を、米FDA(食品医薬品局)が認可したと発表したのは5月24日のこと。製造販売はスイスの大手製薬会社ノバルティス社だ。

「新薬は『ゾルゲンスマ』と言います。遺伝子療法の一種で、人工的に作ったウイルスを使って病変部に正常な遺伝子を届けるというメカニズムです。これによって、筋肉が再び生成されるようになるのです」(ノバルティス社の関係者)

 新薬の承認を心待ちにしているSMA患者は日本にも700人近くいるといわれるが、驚かされるのは、薬瓶1本(注射1回分)で約2億3千万円もすることだ。もっとも、SMAは指定難病となっていることから、日本で承認となれば公費補助の対象になり、患者の負担は月額数万円で収まると見られている。2億3千万円は、それを見越しての金額なのか。ノバルティス社に聞くと、

「アメリカでの薬価はFDAが決めたもの。患者さんが少ない希少疾患であること、これまで有効な治療法が確立されていなかったことを勘案しての値段だと考えています」(広報担当者)

「赤ひげ先生」が見せた心意気は、遠い昔の話である。

週刊新潮 2019年6月6日号掲載

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