川崎20人殺傷事件、ひきこもりの専門家は「伯母の手紙」が引き金と分析

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 私立カリタス小学校の児童ら20人が刺され、小6年の栗林華子さん(11)と外務省職員の小山智史さん(39)の命を奪った「川崎20人殺傷事件」。岩崎隆一容疑者(51)は、スクールバスに乗るために並んだ児童や保護者の後方から接近し、次々と凶刃をふるった。1人目の犠牲者を刺してから、自殺するまで1分にも満たない、息をもつかせぬ犯行だった。

「この事件で、“ひきこもり”が、さらに世間の目から冷たく見られてしまいます。僕らのやっていることも厳しい状況になるかもしれません」

 と感想を漏らすのは、40代・50代ひきこもり家庭支援組織「市民の会 エスポワール京都」を主宰する山田孝明氏だ。

「池田小学校事件(2001年)や秋葉原無差別殺傷事件(08年)の犯人はまだ若く、社会とも接点があった。ところが、今回の事件の岩崎容疑者は50歳を超えているし、10年以上ひきこもっていたということですから、普通はあんな事件を起こすようなエネルギーがあるとは思えない。何かよほどのことがあって、絶望的な心境に追いつめられたとしか考えられませんね」(同)

 山田氏が、ひきこもりの若者を支援するようになったのは1994年。京都市でひきこもりの若者たちに安心できる居場所を与えるために「ライフアート」を設立した。その後、ひきこもりの子を持つ家族の会「オレンジの会」を京都、大阪、神戸、名古屋と次々に立ち上げ、2017年4月、「市民の会 エスポワール京都」を設立。これまで500名ものひきこもりの当事者や家族を支援してきた。今年の3月には、『親の「死体」と生きる若者たち』(青林堂)を刊行している。

 岩崎容疑者は、小学校低学年の時に両親が離婚し、父親の兄にあたる伯父夫婦に引き取られる。中学は不登校となり、専門学校に通い、職を持った時期もあったが、ここ10年以上はひきこもっていた。伯父、伯母は80代で、親と親戚の違いこそあれ、いわゆる80代の親が50代の子の面倒をみる「8050(はちまるごーまる)問題」に該当する。

事件後、警察が岩崎容疑者の伯父、伯母に犯行時の岩崎容疑者の写真を見せて身元を確認しようとしたところ、伯父、伯母は口をそろえて「知らない」と言及している。事件の前日スキンヘッドにしたため、印象が違ったとはいえ、自分の甥の顔がわからなかったとは、俄かには信じられないが、

「8050問題では、これまでの経験から言って、もはや手遅れの場合が少なくありません。50歳になるまでひきこもった人は、もう症状が固まってしまって、会話をすることさえも難しいのです。80代の親は自分を苦しめる子に対して恨みを抱いているし、子の方は自分がこうなったのは親のせいと思っています。だから親子は一緒に暮らしていても口も利かないで疎遠になっているのです」(同)

 岩崎容疑者は、事件を起こすまで、同居していた伯父や伯母と顔を合わせることもほとんどなかったという。風呂やトイレもルールを決めて、顔を合わせないようにしていたという。

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