“3500万円空き巣被害”の高須院長、美容外科医が他の医者より圧倒的に儲かる理由
やたらとCMを流すワケ
いずれにせよ費用は決して安くない。だが、患者は増えている。これも美容外科医にとっては追い風だろう。つい数年前までは「美容整形の市場規模は2000億円」と言われていたが、日本美容外科学会(JSAPS)の調べによると、2017年の市場規模は約3740億円。近年、男女ともに美容整形に対する意識が変化し、アレルギーを持たない人が増えているからだろう。
同学会の調べによると、17年の施術数は160万3318件だった。ただし、調査対象3656院のうち、回答したのは521院に過ぎないから、実際にはこれを大きく上まわる施術が行われているとみられる。美容整形大国・アメリカの16年の施術数は約422万件なので、人口の違いを考慮すると、日本でも美容整形が大衆化しつつあると言えるだろう。
費用の設定は自由で、患者も増えたのだから、腕のいい美容外科医はさぞかし儲かっているに違いない。だが、あるベテラン開業医は「美容外科医は腕がいいだけではダメ」と語る。
「友人が何人か美容外科を開業したが、確かに高い技術を持つ美容外科医の収入は悪くない。ただし、より高収入を得るためには宣伝が不可欠。美容外科の場合、ほかの診療科とは違って、『私がお世話になった医院は良かった』と言う患者がまずいませんから」
美容外科医院は口コミで評判が広まりにくいのである。だから美容外科医院は、CMをやたら流す。
実は、内科や外科などもCMが流せるのだ。もっとも、保険診療が大半である診療科はCMを流しても採算が合わないので、まずやらない。しかも、医院のCMには医療法でさまざまな規制が設けられているおり、中身を考えるのが難しい。一方、高須氏は、CMの使い方がうまかった。
美容外科のCMは、本人の了解を得ようが著名人の患者がいることを謳ってはいけないし、施術前と施術後の写真を並べることも許されず、費用の強調もしてはいけない。やれないことだらけ。二の足を踏んでしまいそうなところなのだが、高須氏が早くから「高須クリニック」「yes!高須クリニック」などと医院名のみ強調するCMを大量に流したのは知られているとおりだ。
「あのCMは意味不明」という声もあるようだが、医療法の規制を考えると、医院名のみを伝えるほうが無難だった。どこまで高須氏が事前に計算していたのかは分からないが、商品の内容まで伝えるほかのCMと違った分、得も知れないインパクトが生まれた。知名度は飛躍的に高まった。
高須氏はCMを効果的に使っただけでなく、美容外科医としても数々の業績も残している。昭和大学医学部と同大学院で骨や関節の機能障害を治療する整形外科医学を学んだあと、1976年に高須クリニック(名古屋市)を開院し、それからは新しい治療法の導入や考案に次々と挑んだ。今では広く行われている「脂肪吸引」をヨーロッパから日本に導入したのは高須氏だし、メスを使わずにヒアルロン酸注射で鼻を高くする施術も考え出した。高須氏はこれを「プチ整形」と命名し、流行らせ、美容外科全体の患者を増やしたとされている。確かに、「整形は怖いが、プチ整形ならいい」という人はいそうだ。
では、高須クリニックの費用のほうはどうなのかというと、ホームページの料金一覧を調べた限り、他院と比べてとくに高いというわけではない。二重まぶたにする「埋没法施術」の場合、片側5万円。他院の費用を見ると、7万や8万円のところもあるので、標準的といったところか。
高須クリニックは現在、東京、名古屋、大阪など5院ある。高須氏の著書「行ったり来たり 僕の札束」(小学館)によると、その総売り上げは計約60億円。その富が得られた理由は、稼ぎのいい美容外科医に求められるという「腕」と「宣伝力」を兼ね備えていたということか――。
[2/3ページ]