上皇・上皇后さま「おもてなしの宿」秘話 国民を前にした優しさ、その逸話の数々

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「チョッキになろうかな」

 このホテルには、平成16年に開催された第59回国体の時と、平成29年の私的ご旅行で2回滞在されている。

 杉田社長の妻・杉田亜通子さんによれば、

「ホテルオリジナルのオレンジケーキと、新たに作りました胡桃ケーキとダージリンティーをお出ししました。紅茶はお飲みになる時に70度の適温でお出しできるよう、裏では総料理長がいくつものカップにダージリンを注ぎ、用意していたんです」

 加えて、

「最初のご訪問は10月でしたから、デザートには柿をご用意しました。ただ、準備していた食材の柿より、どう見ても私共の自宅で採れた柿の方が美味しそうで。拙宅のものをお出ししましたところ、ひとつひとつの食材に『これは何処で採れたものですか』とご下問がありましたので、柿については『社長が自宅の庭木に梯子をかけ、最も日当たりのいい、一番美味しいと思われる柿をお持ちしました』と、正直にご説明しました。すると毎食、両陛下は『社長のお宅のお庭の柿で』と一言添えてくださるので、結局、4回の食事全てのデザートに、拙宅の柿を供することになりました」

 肝心のメインディッシュは、事前に160種類ものメニューを用意。そこからお二人に選んで頂いた。たとえば2泊目の晩の食事はといえば、

「美智子さまは鱶鰭(ふかひれ)のスープとおこげを、上皇さまはカレーを希望されました」(同)

 中華とカレー。お二人の好みは分かれたが、厨房で腕を揮(ふる)った齊藤勇人総料理長はこう振り返る。

「カレーがお好きとは伺っておりましたが、ご夕餐でお召し上がり頂くとは思いもよらぬことでした。シンプルなメニューを如何にお楽しみ頂くか思案した結果、きゅうりとカリフラワー、それにパプリカのピクルスと、福神漬けとらっきょう、合わせて5種類の付け合わせを、精密に2ミリのダイヤモンド型にカットしました。終わるまで2時間かかりましたが、それを綺麗なガラスの器に盛りました」

 心を込めて調理され、盛りつけられたご馳走を、お二人はどう食されたのか。

 亜通子夫人に尋ねると、

「上皇さまは、ソースポットからカレーをかけて召し上がることがないのか、『これはどうやって食べればいいの』と、ご下問がありまして、『どうぞ、上にかけてお召し上がりください』と申し上げました。上皇さまはライスの上にカレーをかけ、カットしたピクルスを全てのせてから、召し上がられましたね。そのお姿はとっても楽しそうでした」

 ただ、こんな失敗談もあったと、恥ずかしそうに亜通子夫人が続ける。

「お二人は、私共がとても緊張しているのをご存じで、どんな時も緊張を和らげようとしてくださるのがよく分かりました。上皇さまはお食事の時にも必ずジャケットを着用され、普段でもラフな格好はなさらないのですが、この時は美智子さまとお二人だから、と『ちょっと暑いかな、チョッキになろうかな』と仰いましたので、つい私はいつもの接客のように、上皇さまのジャケットをお脱がせしてしまいました。でも本来は美智子さまがされることだったんです。すぐに気づいてお詫び申し上げました」

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