上皇・上皇后さま「おもてなしの宿」秘話 国民を前にした優しさ、その逸話の数々

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「上皇・上皇后」再訪されたい「おもてなしの宿」――山崎まゆみ(2/2)

 上皇・上皇后のお二人は、平成の御世だけでも47都道府県を2巡され、その移動距離は地球15周分だと伝えられる。各地の宿はいかに「おもてなし」し、お二人は何を現地にもたらしたのか。温泉エッセイストの山崎まゆみさんが、行幸啓の秘話を繙く。

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 国体と並んで「三大行幸啓」のひとつとされるのが、全国植樹祭である。毎年春、会場を替えて各県で開かれる国民的行事だが、平成16年4月24日、上皇と美智子さまは第55回会場となった宮崎県を訪問されていた。

「宮内庁から『匂いのない花を』と注意がありましたので、お二人が滞在される13階のフロアには、匂いがない宮崎自慢の和蘭50鉢を置きました」

 そう振り返るのは、栄えある宿泊先に選ばれた「宮崎観光ホテル」(宮崎市)で、当時社長を務めていた杉野紘生氏だ。

「美智子さまから、『宮崎にも蘭があるのですか? 伊豆半島に蘭があることは私も知っています』とお声をかけて頂きましたので、『山の中に和蘭が自生しております。宮崎はこの蘭を大切にしております』と、お答えしました。宮内庁からは『(両陛下へは)基本的に話しかけてはいけない。質問があったことにお答えするように』と言われていましたが、特に、美智子さまにおかれましては、神々しさと気品と、威厳もございましたが、不思議と親しみやすさも感じました。ですから、私は緊張することもなくご説明ができたのです」

 植物に造詣の深い美智子さまを、宮崎と同じく地元ならではの花でお迎えしたのは、鹿児島県への行幸啓の際に必ずといってよいほど立ち寄られる、城山ホテル鹿児島(旧城山観光ホテル=鹿児島市)だ。

 平成15年にご宿泊の際は、分刻みでご公務をこなされる上皇と美智子さまに少しでも寛いで頂けるよう、あえて生け花ではなく鹿児島に咲く野の花々を飾ったそう。お二人の泊まられた部屋の枕元をはじめ、洗面台、バスルーム、窓際に至るまで、可憐な野の花がそっと置かれた。

 取締役営業本部長の渡千左代さんは、

「お見送りの時、上皇さまから当時の社長に『たくさんのお花をありがとう』と、お言葉を頂いたようです」

 この時、上皇は16年ぶりのご訪問にもかかわらず建物のリニューアルに気づかれて、ホテルマンを驚かせたという逸話も残っている。

 ご記憶の確かさという点では、埼玉県熊谷市にある天然温泉リゾート「ホテルヘリテイジ」の杉田憲康社長の話も印象的だ。

「平成12年の秋に、秋篠宮家の佳子さまが遠足で当ホテルにいらして、パンをお作りになりました。お帰りになる際に『このパンはどなたと召し上がるのですか?』と伺いましたら、『おじいさまと』と仰いまして。4年後、上皇さまと美智子さまがお見えになりました際、その話をしますと『あぁ、覚えています』と上皇さまが仰り、美智子さまも『こちらのホテルで作られたパンだったんですね』とうなずかれて、優しいお顔をされました。4年も前の出来事なのに、よく覚えておいででした」

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