投資信託6千本の中から運命の1本を見つける三つのポイント 専門家が教える定年後設計
年金、住まい、資産運用……そろそろ真剣に「定年後のお金」について考えないといけない、そんな現役世代の人たちに、創立16年のお金の学校「ファイナンシャルアカデミー」(https://www.f-academy.jp/)の講師陣が定年後の設計方法をわかりやすく指南します。第4回も講師は引き続き、某大手証券会社出身でファイナンシャルプランナーでもある小野原薫先生。「50代投資初心者でも、6千本の投資信託から運命の1本を見つける方法」と題して、最近耳にすることも増えた投資信託について教えてもらいました。
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読者代表:吉田正史さん(仮名・53歳)
新卒で入った中小企業で営業として勤続31年。高校生の長女と中学生の長男を育てる2児の父だ。年収は650万円で、マイホームは35歳の時に35年ローンで購入したが、目下の不安は退職後のお金のやりくり。「年金」や「iDeCo」についての知識を深め、そろそろ具体的な資産運用も気になり始めたところ。
吉田さん:公的年金の事情がわかった以上、少しでも早く、自分でも年金づくりを始めたいなと思うんですが、最近よく耳にする「投資信託」ってどうなんでしょうか? 周りからはとりあえずやっておきなよ、なんて言われることもあるんですが、いまいちどんなものかもよくわかってなくて。
小野原先生:わかりました。では基本的なところから、重要なチェックポイントまで今日はお伝えしますね。
吉田さん:ぜひ!
小野原先生:投資信託は、たくさんの投資家から集めたお金を一つにまとめて、それを使ってプロがいろんなものに投資をする。で、投資をして得られた利益を投資家に還元するという仕組みです。金融商品の福袋と言われることもあります。
その特徴は大きく三つあって、一つ目は少額から始められるということ。1人では1万円しか出せなかったとしても、たくさん集まれば、何十億、何百億というお金になるので、大きな額を出さないと投資できないようなものにでも投資ができるわけです。
二つ目は運用を全てプロがやってくれるということ。個別の株を買おうと思ったら、何を買うのかはもちろん、売り買いのタイミングも自分で考えないといけないですが、投資信託だとそれを全部プロがやってくれるんです。だからちゃんといいプロさえ見つけてしまえば、あれこれ考える必要もなく上手に増えていく、と。
三つ目は、みんなで集めた大きなお金をプロが運用してくれるので、自分ひとりでは投資しにくいような、外国株や不動産など世界中の優良な投資先に投資できるいうことです。
吉田さん:最高じゃないですか先生! 始めますっ!!!
小野原先生:そうです! 上手に使えば最高なんです。自分が知らないようないい会社を見つけてくれて、いいタイミングで買ったり売ったりしてくれて。“良いものさえ見つけてしまえば”あとは頑張らなくても少額から始めて資産を増やすことが出来て。これが投資信託の魅力ですね。
吉田さん:ちなみに少額からというのは、いくらから出来るんですか?
小野原先生:積み立て投資なら月々100円からでも出来ますよ。
吉田さん:確かに少額!! それにしても小野原先生、さっき“良いものさえ見つけてしまえば”とすごく強調されてましたが、その見つけ方、どうしたらいいんでしょう?
小野原先生:投資信託はプロが運用してくれるから初心者でも始めやすいと言われることが多く、実際始めている方も多いと思うんですけど。私たちが日本にいて実際に投資信託を買おうと思ったら何種類の商品から選ばなきゃいけないのかご存知ですか?
吉田さん:その聞き方は、多いってことですね?! うーん…500とかですか?
小野原先生:答えは6千種類以上です。6千の中から自分に合うぴったりの一つを選ぶ必要がある、と。
吉田さん:ろ、ろくせん…。気が遠くなりますね…。
小野原先生:ちなみに個別株でも日本で上場している会社は約3700社ですので3700分の1を選べば良いんです。投資信託はなんとなく簡単に始められそうに思う方もいらっしゃいますが、知識を持たずに選んでしまって、思ったより上手くいかないということは結構起こってるんですよ。
吉田さん:うーん…なんだか道は険しいですね…。何かコツとかないんですか??
小野原先生:たくさん知るべきポイントがあるので、私の授業に出てもらうのが一番なんですが(笑) そうですね…、まずかなり多くの方がやりがちで、でもやってはいけないこととしては「ランキング」で選ぶことでしょうか。
吉田さん:えーーー! むしろ、ランキングを頼るしかないって思ったとこでしたよ。
小野原先生:気持ちはわかります。でも、これから資産運用を始めようという吉田さんには、この発想は一旦やめて欲しいと思います。ランキング上位!とか、これが今オススメ!って、「金融機関」が言ってくるのはどうしてだろう?と冷静に考える力を是非持って欲しいです。
吉田さん:はい…。
小野原先生:6千分の1を自分で決められないと思ったら、銀行とか証券会社の窓口に行く人もいるでしょうし、ネットのランキングを見たりする人もいると思うんですけれど、言い換えればランキング上位に来ているということは、販売会社が力を入れて販売した商品であるとも言えるんです。
じゃあ、銀行や証券会社が力を入れて販売する投資信託ってどんなものだろうかというと、販売する側にとってのメリットが大きいものであることが多いのが、残念ながら実情なんです。
吉田さん:はぁ。普段からランキングで食べに行くお店を探す自分としては、無意識にランキングは参考にしちゃいますね。でもそこではないと。
小野原先生:はい。販売会社にとってメリットが大きいだけで、私たち買う側にとっては実は手数料が高くてあまりメリットのない商品かもしれないです。もちろん、ランキング上位のものが全てそうとは言い切れませんが、資産運用の大前提として、買う側だけでなく売る側の立場にも立った「両面思考」で判断をしてほしいです。鵜呑みにしてはいけません!
吉田さん:わかりました。でもじゃあ、どう選べばいいんでしょうか。何を軸に買えばいいんでしょうか。
小野原先生:そうですね。自分の「リスク許容度」は一つ大切なポイントです。投資信託にはどんな商品に投資しているかによって、すごく値動きはするけれどもリターンが高いものとか、値動きは小さいけれど着実に増えていくものとか、いろんな種類があるんですね。その中で自分はどのぐらいのリスクリターンの振れ幅だったら耐えられるのかというのをちゃんと理解した上で選んでほしいです。具体的に言えば、100万円が90万円になっても耐えられないのか。それとも80万円になったとしても150万円になる可能性があるならそちらの方がいいのか、など。自分の性格をよく考えて選んだ方がいいですね。
吉田さん:なるほど…。例えば自分だったら、100万円が半分の50万円になったら嫌だけれど、80万円ぐらいまで減るのはぎりぎり耐えられますかね…。そういう人はどうなんでしょう?
小野原先生:それだといろんなものに分散投資をしている商品がいいと思います。株、債券、不動産、あとは金とかに分散。いろんなものを投資対象としている商品を選んでおくと、どんな環境でも減りにくくはなるので。
吉田さん:じゃあ逆に、うちの弟なんかは、100万円が30万円ぐらいになってもいいけど200万円の可能性を狙いたい!みたいなタイプなんですが、こういう人はどうなんでしょうか?
小野原先生:そうですね。それなら新興国の株に集中して投資している商品とか。インドの株の投資信託とかだったら、それなりに動きは出ますね。世界の経済は少なくとも拡大はしていますし、日本の人口は減ってますがアジアの人口はどんどん増えています。人口が増えれば車も必要だし、ご飯も必要だし、エネルギーだって必要だし。経済成長している場所で、必ず必要なものに投資をしていくというのは減らしにくくて良い方法かと思います。
吉田さん:必ず必要なもの。なるほど。言われてみればそんな気もしますね。じゃあ先生が教えてくれたことを整理すると、まずはランキングを鵜呑みにしてはダメだという話があり、そのあと自分のリスク許容度を知るという話があり。リスク許容度が低い人だと分散が良いし、比較的高い人だと集中した商品も検討の余地あり、と。世界の経済成長にも目を向けなさい、と。
小野原先生:はい。そうですね。
吉田さん:他にもポイントはありますか??
小野原先生:まだまだありますが…最低でも5年以上運用した商品を選んでほしいですね。
吉田さん:それは何か理由があるんですか?
小野原先生:さっき6千種類ありますと言いましたが、そのうち400本はこの1年で新しくできたものなんです。
吉田さん:そんなに!
小野原先生:そう。そしてその一方で年間300本がなくなるんです。(笑)
吉田さん:結構入れ替わりが激しい世界ですね。
小野原先生:そうですね。入れ替わっていく中で、悪いものは「償還」といってどんどんなくなっちゃうんです。悪いものを選んでしまうと、自分がどんなにその投資信託を持っていたいと思っても、今は売り時ではないと思っても、手放さざるを得ないんです。そうならないためにも今までしっかり増やしてきましたよという実績があるものを選んだ方が良くて。その目安として5年というのは良いのかなと思います。
吉田さん:じゃあ5年以上は存在している投資信託を選びましょうと。
小野原先生:はい。ダメなものってほんと1年半ぐらいで、すーっとなくなってしまうので。
吉田さん:わかりました。あと他のポイントはどうでしょうか?
小野原先生:「販売手数料ゼロ」と謳っているものも気をつけた方がいいです。
吉田さん:それはどうしてですか? 手数料には注目した方が良いって何かで見た気がするんですが。
小野原先生:投資信託にかかるコストって、「販売手数料」だけではないんですよね。
吉田さん:他にも何かあるんですか?
小野原先生:はい。投資信託にかかるコストは大きく三つあって、まず買う時にかかる「販売手数料」、次に持っている期間中ずっとかかってくる「信託報酬」、そして売る時にかかる「信託財産留保額」。一番注目すべき手数料は、持っている期間ずっとかかってくる「信託報酬」です。
吉田さん:なるほど。
小野原先生:販売手数料ゼロの商品は「ノーロード」と言って、最近凄く注目を浴びてはいるんですが。
吉田さん:ノーロードって聞いたことあります!
小野原先生:いくら販売手数料がなかったとしても、もし年間にかかるコストが高ければ、最終的に自分の利益が思ったよりも出ないということもあるので、販売手数料がゼロだから手数料は何もかからないと勘違いをしないでほしいですね。
吉田さん:確かに! つい「販売手数料」という言葉に引っ張られがちですが、持っている間にずっとかかる手数料である「信託報酬」こそ注目すべき、ということですね。「信託報酬」って言葉に慣れないと。
小野原先生:そうですね! 信託報酬がたった1%違うだけでも、年間にかかる金額、そして10年20年と長く持った時にかかってくる金額の差ってかなり大きなものになってくるので、信託報酬はなるべく低い方が良いです。
吉田さん:低ければ低い方が、ですね!!
小野原先生:そうですね。ただ、どんなものに投資をしているのかによって、信託報酬の平均は全然違うので気をつけてください。日本株だけなのか、それとも外国のものにも投資をしているのか。信託報酬とは実際に売買をしているプロに支払っている手数料なので、売買が煩雑なものになるとそのコストは上がってきます。
吉田さん:具体的に言うとどういった商品の信託報酬が高めとかってありますか?
小野原先生:プロがたくさん関わっているファンドはコストが高めですね。例えば複数の会社が共同で作っているファンドなんかは高めなんです。共同でやっているものの中には「バランスファンド」と言われるようなものもあったりします。コストが高いとリターンはそんなに大きく望めないかも、と考えておいた方がいいですね。
吉田さん:なるほど…。言われてみれば納得ですが、色々と知るべきポイントがありそうですね。
小野原先生:そうなんです。ランキングを鵜呑みにせず、一つ一つちゃんと押さえていけば大丈夫ですよ!
〈今日の学び〉
・投資信託を選ぶときにランキングは鵜呑みにしない。
・自分のリスク許容度を知った上で、5年以上の運用経験のあるものにまずはふるいをかける。
・投資信託の手数料は三つ、まず重要視するのは「信託報酬」。
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