投票開始!「欧州議会選」極右躍進でも実は一枚岩ではない「内実」

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 欧州議会選挙が、いよいよ5月23日から順次各国で投票が始まった。26日に開票が行われ、27日には大勢が判明する。

 各国とも、保守勢力が大崩れし、極右・ポピュリスト政党が大躍進するのではとの見方が強い。結果は判明するまでまだ予断を許さないが、極右・ポピュリスト勢力が国を超え欧州レベルで連携しているかのような印象は確かに強い。

 選挙戦もラストスパートに差しかかった5月18日の土曜日、イタリア・ミラノで欧州各国の極右政党党首が集会を開いた。あいにくの雨だったが、会場のドゥオーモ広場は傘で埋まった。

 それにしても、「欧州議会選挙」とは名ばかりで、各国で個別に、自国の問題ばかりが語られているなかで、「反欧州派」「EU(欧州連合)懐疑派」「国家主義者」とレッテルを貼られているグループが最も活発に欧州レベルで戦っているのは、実に奇妙なパラドックスと言うしかない。

イタリア「極右政権誕生」の影響

 拙稿『すっかり衣替えしていた仏「極右政党」の変貌ぶり』(2019年5月13日)でも紹介したが、今回の選挙でフランスの極右「国民連合」(RN、旧「国民戦線」=FN=)は「諸国家(諸国民)の欧州」を掲げている。

 欧州共同体と単一通貨ユーロに民衆はあまりにも愛着を持っている。それに英国のブレクジットのドタバタは離脱の難しさを見せつけた。いまでもEU離脱を言う少数政党はあるが、敏感に大衆の空気を読むのは、ルペン家伝統の芸だ。

 そんなわけで、「RN」は党首マリーヌ・ルペンの大統領選敗北の後、2017年の秋に打ち出したこの路線変更には、フランス国民の意思を感じ取ったからというほかに、欧州全体で極右勢力が伸長する中で、その覇権をとるという狙いもあった。

 父ジャン=マリー・ルペンの時代から欧州の極右(新右翼)運動はフランスがリードしていた。ネオナチを否定したこと、左翼のインターナショナルに対抗する右翼のインターナショナルという方向を見つけたこと、そして地方及び国政の実績などがその主な理由である。

 当然、今回の欧州議会選挙に向けてもそうなると思われていた。

 ところが、昨2018年春、事情が変わった。イタリアで、総選挙の後、6月にポピュリスト政党同士の「五つ星運動」と「同盟」の連立政権ができたのである。

 父ジャン=マリーの時代から「同盟」の前身の「北部同盟」とは深い友好関係にあった。だが、いまやマッテオ・サルヴィーニ「同盟」党首は副首相兼内務相で、マリーヌ・ルペン党首はただの野党国会議員であるにすぎない。また、サルヴィーニは実現性のないイタリアからの独立運動を掲げる「北部同盟」を国民政党にかえた。

 そして昨年10月、サルヴィーニ党首とルペン党首は共同記者会見を開き、前述した「諸国家(諸国民)の欧州」を発表した。

 しかしながら、実際にはこのあたりから両者両党の関係は微妙なものになっていた。

 サルヴィーニ党首は、「良識の欧州」というスローガンを編み出し、RNの指導者との接触を避けるようになっていった。

 一方ルペン党首は、今年に入って1月13日にパリの集会で、「人民の声は良識の革命を担っている」と表明したが、そのあと言及はない。

「蜜月」のようだが……

 それが4月5日、G7内相会議でパリを訪れたサルヴィーニ党首は、ルペン党首と会談した。どうやらここで再びの転機が訪れたようだ。

 RNの欧州議会選挙リスト筆頭の地方議員ジョルダン・バルデラ氏は4月20日、「欧州人民は目覚めた。そして良識のヨーロッパを求めている! 私は次の欧州議会で大きな主権主義者グループのためにサルヴィーニのアピールに署名した」とツイートしている。

 さらにルペン党首も、5月1日の演説で、「良識の革命」を訴えた。もっとも、自身の変節を隠すためか、「25年前から我々は良識を語っている」と付け加えることも忘れなかった。

 その直前の4月25日、ルペン党首はチェコのプラハで、同国の日系トミオ・オカムラ(日本名は岡村富夫)率いる極右「自由と直接民主主義」(SPD)と、さらに翌日はデンマークのコペンハーゲンで「デンマーク国民党」代表と憲章を取りかわした。この憲章は欧州議会政党「国家と自由の欧州」(ENL、ルペン党首が共同代表)のものであるが、パリではなくローマで作成され、まずローマで署名されたものである。

 その後ルペン党首は5月に入ってからも、ブルガリアのソフィア、ベルギーのブリュッセル、スロバキアのブラチスラバ、エストニアのタリンなどを歴訪した。そして冒頭で触れた5月18日のミラノ集会を迎えたのである。

 他の党の演説は2分だったが、ルペン党首だけは10分演説した。彼女は、一部イタリア語でも演説するリップサービスをした。これだけ見るとイタリアの極右政党、支持者らとも蜜月と言えそうだが、決してそう簡単ではない。

 極右政党は、きわめて個人色が強い。そのため、抗争分派が絶えない。いまのところひとまずルペン党首がサルヴィーニ党首(副首相兼内相)に欧州のリーダーの座を譲ったような形だが、今後どう展開するのかはまだまだわからない。

極右から「毛嫌い」されているルペン党首

 この集会について、各国メディアでは「ミラノに欧州の極右勢力が一堂に会した」と報道された。たしかに、この集会には主催国イタリアを含めて12カ国から、フランスの「RN」、イタリアの「同盟」、オランダの「自由党」(PVV)、ドイツの「ドイツのための選択肢」(AfD)など、マスコミをにぎわす政党が参加した。しかし、これらはヨーロッパの極右勢力のごく一部でしかない。すでに政権党となっているハンガリーの「フィデス= ハンガリー市民同盟」(Fidesz)やポーランドの「法と正義」(PiS)も、躍進著しい「スウェーデン民主党」(SD)も、スペインの「VOX」も来なかった。

 サルヴィーニ党首は、前述したとおりルペン党首とパリで会談した3日後の4月8日、ミラノで「良識の欧州」グループの結成を発表したが、その席には、ドイツの「AfD」、「デンマーク国民党」、フィンランドの保守政党「真のフィンランド人」が参加した。

 このときルペン党首は呼ばれなかったが、これは彼女も了解済みであった。

 実は、この場に、ハンガリーの「Fidesz」やポーランドの「PiS」を同席させたかったのだが、彼らはルペン党首を毛嫌いしているのである。

 ルペン現党首は、実の父のジャン=マリー・ルペン前党首を個人攻撃までし、党名も変更し、徹底的に父の時代とは違うのだと見せ、フランスでは成功したかに見える。しかし、欧州レベルではまだまだ父の影は消えていないのである。父ルペン前党首は、たしかにヒトラーやムッソリーニは共産主義者だと非難して憚らないのだが、自国の対独協力のペタン政権や、ユダヤ人虐殺のガス室否定説などにはシンパシーをもちつづけている。そうした、欧州にとっての「危険思想」の持ち主の娘であり後継者であるという点で、ルペン党首はいまだに欧州極右の一部からは毛嫌いされているのだ。

 だからこそ結局、4月8日もこの5月18日のミラノ集会にも、彼らはやはり欠席したわけだ。

実はまったくのバラバラ

 現在、欧州レベルでは、極右勢力は「ENL」の他にも2つの欧州政党があり、さらにそこに入っていない勢力もいる。

 各国の国内でも分裂している。

 フランスでは大統領選挙の決選のとき、「ルペン大統領」が実現したらニコラ・デュポン=エニャン党首を首相にすると約束していたドゴール派極右政党「立ち上がれフランス」(DLF)は、いまや「RN」との連携は論外で、欧州議会の政治会派「欧州保守改革グループ」(ECR)とコンタクトしている。また、この「ECR」が欧州委員会委員長候補として推すチェコ人は中道右派政党「市民民主党」(ODS)のペトル・フィアラ党首で、ミラノにも来た極右「SPD」のトミオ・オカムラではない。

 つまり、右翼のいわゆる「欧州懐疑派」は共通して反移民で勢力を伸ばしたが、その先へ行くと、実はまったくバラバラなのである。

 その相違の焦点をいくつかあげてみよう。

 まず、新自由主義に対する態度。

 極右はもともと反共だったから、新自由主義だった。30年前は、新自由主義での金融政策と実体経済とグローバリゼーションは一体となっており、当時の「FN」(現在のRN)も推進派だった。ところがその後、工場移転や安価な出稼ぎや移民労働者の出現もあり、グローバリゼーションを無条件に支持することはできなくなった。米国の大統領として登場したドナルド・トランプなどは、まさにその典型である。

 しかしフランスにおいては、このグローバリゼーションの負の部分が明らかになり、しかも、アメリカと違って新自由主義そのものの欠点であるとみられるようになった。

 そこで「RN」は、(本心かどうかは別として)「反」新自由主義の旗手として「変貌」せざるを得なかった。だが、東欧は出稼ぎ労働者を出すところであり、工場移転の受け入れ国である。むしろ逆に、新自由主義やグローバリゼーションの恩恵を享受している。

 もう1つの相違は、ロシアに対する態度である。

 フランス(RN)やイタリア(同盟)は親ロシアだが、ポーランドやバルト3国など国境を接する国々では、ロシアに対する制裁の解除などもってのほかである。これは、もっと多角的広範囲で見れば、アメリカとの関係をどうするかということにもつながる。

 さらにもう1つ、宗教の位置づけである。

 イスラム教の否定は共通しているが、「RN」は、非宗教(ライシテ=フランスにおける政教分離=)を基礎にしている。これに対して、キリスト教原理主義を支持母体にする極右政党も多い。

 そしてもちろん、一連の集会の参加国の間にも差がある。

 5月18日のミラノの集会では、演壇の後ろに「イタリア・ファースト」の大きなスローガンが掲げられていた。まるで、フランスでの前回の欧州議会選挙の集会に戻ったようだった。「RN」はこの5年間で、そこから脱皮した。ちなみに、「フランス・ファースト」は、20~30年前の父ルペン党首時代の「FN」のスローガンであった。他の参加政党には、まだその当時のレベルにとどまっているところもあるのだ。

広岡裕児
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)、『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの―』(新潮選書)ほか。

Foresight 2019年5月24日掲載

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