バンギャルはなぜ「生きづらさ」を抱えがちなのか? 元バンギャルなりの考察
2018年に東洋経済オンラインで最も記事が読まれ、新書『発達障害グレーゾーン』が現在5刷の気鋭のライター・姫野桂さんが「女性の生きづらさ」について綴る連載「『普通の女子』になれなかった私へ」待望の第5回です。実は青春時代を「バンギャル」活動に捧げていた姫野さん。かつてのバンギャル仲間には「生きづらさ」を抱える女子が大勢いたようです。
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バンギャルの世界では絶対に麺様の方が立場が上
小学4年生の頃、テレビで見かけたGLAYに夢中になった。男性なのにお化粧をしている! かっこいいのに可愛い! メロディアスな曲も聴きやすい。これが、私がバンギャル(ヴィジュアル系バンドの熱狂的な女性ファンの総称。男性のファンは「ギャ男〈ギャオ〉」)に片足を突っ込んだきっかけだ。上京後、どっぷりヴィジュアル系の世界にハマり、足繁くライブに通うようになった。
始めの頃はキャパシティ500〜1000人程度のライブハウスで行われるワンマンライブのチケットが毎回完売するような、わりと人気のバンドに通っていたが、そのうち「バンドマンとの距離の近さ」に目覚め、小さな箱でしかライブを行わない「ドマイナー界隈」と呼ばれるバンドのライブに出入りするようになった。動員数の少ないバンドは、バンドマンが自ら物販席に出てきてファンと交流をしてくれる。バンドマンにとって、それは営業でもある。その距離の近さと、超えてはいけない一線のスリルが好きだった。
バンギャルたちは俗語でバンドマンのことを「麺」と呼ぶ。今は男女平等やジェンダーについて記事を書くこともある私だが、バンギャルの世界では絶対に麺様の方が立場が上だ。お金を払って観に来ているバンギャルよりもお金を取っているバンドマンの方が上だというのは、一見するとおかしな話であるが、これがバンギャル界の常識なのだ。
作家の大泉りかさんの考案で、定期的に開催されているデンデラ女子会にて、仕事でもバンギャル活動においても大先輩の雨宮処凛さんに「最近、仲の良いバンドマンがいる」と相談したところ、赤ワイン片手に「いい? 何があってもバンドマンにとっては彼女よりもバンドの方が優先だからね? これは最近のジェンダー問題とは別よ」と言われた。MALICE MIZERのバックダンサーを務めていたこともある雨宮さんに言われると、説得力がある。
バンドマンと個人的に連絡先を交換したり会ったりする行為(バンギャル用語で「繋がる」と表現する)はタブー。しかし、バンドマンも人間なので恋愛をする。話の合う女性、そしてバンド活動へ理解のある女性を求めると、バンギャルやその界隈(スタッフや関係者など)に限定されてしまう。だから、周りには堂々と言えないけど付き合っているバンドマンとバンギャルのカップルは多い。
また、バンギャルやバンドマンはヴィジュアル系が好きな人とそうでない人種を真っ二つに「バンギャル(稀に男性ファンのギャ男)・麺」と「パンピ」という俗語で分けたがる傾向にある。パンピは、「一般ピープル」の略で、ヴィジュアル系バンドに詳しくない、普通の人のことだ。
「ヴィジュアル系が好き」と公言していると、いわゆるパンピの編集さんから「僕らはあまり分からないから、姫野さんにお願いしたい」と、ヴィジュアル系バンドマンへのインタビューやライブレポを依頼されることもある。その場合、なるべくオシャレな格好を避けて現場へ向かう。バンドマンとの会話も必要最低限に留める。バンドマンとたくさん話してインタビューを盛り上げ、記事にするライターさんもいるが、私は音楽専門のライターではないし、必要な情報を入れた記事に仕上げられているので、これでいいと思っている。
また、「関係者席でライブを観ていると、ファンから『繋がっているのではないか』と思われて嫉妬されるから目立たない格好で行く」とパンピの編集さんなどに言うと「考え過ぎだよ〜」と笑われるが、考え過ぎではなく、そういう世界なのだ(事実、某バンドのインタビュー記事を担当したところ、ファンの方から「姫野さんはここのバンドマンと繋がっているんですか?」というDMをいただいたことがある)。
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