「キレる夫」との結婚生活で「カサンドラ症候群」になった妻の末路
何かがおかしい、でも何がおかしいかわからない
でも、このときの私はまだ夫との間に起こっている問題の本質が全く分かっていなかった。それどころか毎日頻発するトラブルに自分がちゃんと対応できているかどうかばかりに気を取られていた。
夫が怒っているときに事情を説明してももっと怒らせてしまう。具体的に言うなら、何かあったときに事情を聞いたり説明したりするとより夫を怒らせてしまうことをどうにかしようと思った。
だから事情を聞いたり説明したりするときの自分の対応改善を最優先に考えた。「まずは自分が最大限努力しなくては」と思い込んだのは、元来の性格のせいか、「お前が俺を怒らせる」と言われ続けた被害者心理だろうか。
だからこそ精神科に行き、「夫婦喧嘩でイライラしてしまう」と相談し、問題が起こったときに冷静でいられない自分を自分でも責めた。初老の男性医師とのジェネレーションギャップ、ジェンダーギャップを考慮する事なく、医師がいう事を鵜呑みにして傷付いた。
「カサンドラ」とはギリシャ神話に登場するトロイ王の娘の名に由来する。大変に美しい娘だったのでアポローンから予言する力を授かるが、彼女がアポローンの愛を受け入れなかったので「カサンドラの予言を誰も信じない」という呪いをかけられてしまった。彼女は自国の滅亡を予言するが、誰にも信じてもらえない。この神話から「いくら伝えようとしても誰にも信じてもらえない苦しみ」がカサンドラのそれと例えられるようになった。
発達障害のパートナーを持つ人が二人の関係性に違和感を覚えたとき、それを周囲の人にわかってもらうのは非常に難しい。
発達障害やカサンドラに対して知識がなければ余計である。自分の置かれた状況を自分で理解できていなければ、周囲の人や医者が気付いてくれることなどまずない。日々のトラブルに翻弄され、夫婦関係が悪化していくことに危機感を覚えて周りに助けを求めても、寄せられる心ない言葉や的外れなアドバイスでより追い詰められ、どんどん周りから孤立していく。
何かがおかしい、でも何がおかしいかわからない。
上手く説明できず、誰にもわかってもらえない。
カサンドラを癒す第一歩は、まずカサンドラを知ることから始まる。けれど、そこにたどり着くのは容易ではないのである。
〈次回につづく〉
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