野村克也「ひとりに慣れない」と心情を吐露 配偶者に先立たれた時、孤独をどう防ぐか
4月26日に放送された「爆報!THEフライデー」(TBS系)で、「ベストセラーの裏側・悲劇の物語」という切り口で取り上げられたのが眉村卓・著『妻に捧げた1778話』。最愛の奥様を亡くされた後、眉村さんがどのくらい落ち込み、そしてどう立ち直ったかを本人の言葉も交えて紹介していた。
番組内で同書の読者として登場したのが、やはり自身も2017年12月に妻・沙知代さんを亡くした野村克也氏。野村氏はいまだにそのダメージから抜け出せないようだ。
生前は必ず沙知代さんと一緒に食事をしていたことを思い出しながら、
「(一人に)慣れる日は来るの? 諦めだよ。慣れるわけないじゃん。ボヤキを聞いてくれるのは女房だけ」
と、愛妻を失った孤独感や喪失感など現在の心境を吐露したのである。
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普段から仲のよかった夫婦はもちろん、奥さんの尻に敷かれて辛いと感じていた男性であっても、配偶者との死別は女性に比べ孤独に陥りやすいといわれている。
シニア生活文化研究所所長の小谷みどりさんは、42歳の時に夫を亡くした経験をもとに、パートナーに先立たれた人たちの会、「没イチ会」を作り、残された人たち同士の交流を深める活動をしている。
小谷さんの著書『没イチ パートナーを亡くしてからの生き方』の中で、ある男性は妻を亡くした時の様子や当時の心境を以下のように赤裸々に語っている。
「かみさんががんで亡くなったのは2011年8月24日。何事にもめげず、弱音は一切吐かない人でした。亡くなって分かったことはいっぱいあります。人間て、亡くしてみないと、その人のよさ、ありがたさって分からないなと思いました。かみさんの強さに思い至った時に、自分にもこんな強さがあったら……僕は軟弱だったねって思いました。彼女は諦めるということをしなかった。僕の両親に対しても、見えないところでよく尽くしてくれていた。病気に対しても前向きで、弱音はほとんど言いませんでした。
遺品は全く手を触れていません。日記や手帳類も、本人の物なので見ちゃいけないと思って、触っていません。着るものも何もかも、そのままです。片づけようとも思わないんです。そのまま置いとこうと。だって、邪魔とも思いません。彼女の銀行預金口座も実はそのままです。
葬儀など終わって、9月から10月初めぐらいまで、精神的にはものすごく大変でした。人生の中でも、一番どうしようもない期間でした。一人ぼっちになっちゃったという孤独感と、寂寥感、不安、いろんなものが混じっていっぺんに押し寄せて来ました。どうしたらいいか途方に暮れちゃう感じでした。」
第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部で2017年4月に小谷さんが発表したレポートには、次のようにある(「配偶者と死別したひとり暮らし高齢者の幸福感」)。
「(配偶者と死別したひとり暮らし高齢者に)現在の幸福度について、『まったく幸せではない』0点、『とても幸せ』を10点とすると、何点くらいになるかを回答してもらったところ、最も多かった回答は男性で5点だったのに対し、女性で8点で、平均値は男性で7.09点、女性で7.82点と、女性の方が高かった」
「生きがい(喜びや楽しみ)を感じるのはどのような時かを複数回答で全員にたずねたところ(略)、ほとんどの項目で女性の回答率が男性を上回った」
やはり男性のほうが落ち込みやすいようだ。特に会社員の場合、退社後は、人間関係が希薄になることも珍しくない。かといって、新しい友人、知人を作るのもスムーズには進まない。そうなるとどんどん孤独になっていく。
男性が配偶者を亡くしたときどうすれば孤独にならないようにできるのだろう。
人間関係の築き方について、小谷さんは次のようにアドバイスしている。
「男性は現役時代の肩書きにしがみつく傾向にあります。仕事関係以外で、初対面の人と集う場で自己紹介をする時、定年退職をしているのに現役時代の自慢話や武勇伝をする人を時折見かけます。本人はそれが自慢話だとは認識していない場合も多いのかもしれませんが、初対面の人にそういう話をするのは、違和感を与える可能性があります。もちろん親しくなれば問題ないのですが、仕事とは関係のない場所で出会った初対面の人に、自分は社長だったとか、上場企業の役員だったなどという話をするべきなのかは考えものです。
つまり初対面の人に、『この人ともっと話をしてみたいな』と関心を持ってもらうには、TPOに応じた自己アピール力を身につけなくてはならないのではないかと思います」(『没イチ』より)
もちろん、死後に慌てるよりは配偶者が元気なときから備えるにこしたことはない。
「男性では、友人がいない、近所の人との付き合いもないという人が多いのは、自分自身の生活や、近所の人や友人との関係について、配偶者がいる間にはあまり意識していなかった人が多い結果のように思われます。『いつまでもあると思うな親と金』ということわざがありますが、これにかけると、『いつまでもあると思うな配偶者と時間』といった感じでしょうか。
配偶者に先立たれる悲しみや孤独、衝撃は防ぎようがありませんが、没イチになった後の生活をどうするか、どう孤独を防ぐかという対策は、いつからはじめても早すぎることはありません。配偶者だけが頼りという生活は、配偶者に先立たれるというリスクを考えると、危険といえます。普段から自立した生活力を身につけ、人間関係のネットワークをたくさん持っておくことが、没イチになった後のリスクヘッジとなるのです」(同)
生前、沙知代夫人は、野村氏に対して「男は死ぬまで働きなさい」「一生働く、一生野球人、一生私の夫」と繰り返し言っていたという。
孤独に打ちひしがれていた野村氏も、この言葉を思い出しそれを励みに休んでいた仕事を再開することで、少しずつ生きる力を取り戻しているようだ。人間関係なのか、仕事なのか、趣味なのか、いずれにしても一人になったときのダメージを少なくする手立ては何か考えておいたほうがいいのだろう。