業績好調の「日高屋」に立ちはだかる500店舗の壁、いよいよ迎える正念場
稚拙な値上げ戦略?
一方、不調説を展開したのはPRESIDENT Online。4月19日に「“駅前深夜”の日高屋が客離れで苦戦のワケ」の記事をアップした。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏の署名原稿だ。
記事は《ラーメンチェーン「日高屋」の業績が伸び悩んでいる。「駅前・深夜」に強みをもっていたが、既存店客数・売上高ともに不調にある。なにが起きているのか》とのリードで始まる。これも重要な記述を2点、紹介させていただく。
《(日高屋は)原材料費や人件費などが上昇したため、麺類と定食類を中心に一部のメニューを10~30円値上げしている。例えば、「野菜たっぷりタンメン」は20円引き上げて520円、「肉野菜炒め定食」は10円引き上げて690円に値上げした》
《昨年4月の値上げ以降、客数が顕著に減少傾向を示すようになった。一方で客単価は上昇傾向を示すようになり、ある程度は客数減を補ったが、完全にはカバーできなかった。値上げの影響が色濃く出た19年2月期の既存店売上高は先述の通り前期比0.7%増とわずかに前年を上回ったが、18年2月期が2.3%増だったことを考えると明らかに失速している。値上げがブレーキをかけた可能性が高いと言っていいだろう》
この記事で佐藤氏は「ハイデイ日高の収益力は衰えを見せている」と指摘した。各社が苦戦する中での“勝ち組”と見るか、“結局は同じ負け組”と考えるか、経済メディアの間でも分かれているようだ。
長年、外食産業を取材し、なおかつ、日高屋の“ヘビーユーザー”を自認する記者に話を訊いた。
「先日も夜に訪れ、つまみを数品とホッピーを4杯呑みました。以前なら合計1500円くらいだったはずですが、その時の会計は1600円台の後半で、値上げを実感しましたね。たった100~200円の違いでも、消費者に与える影響は少なくないと思います。と言うのも、私のような常連客であっても、日高屋の味が大好きで通っているわけではありません。残業で疲れて、帰宅前にちょっと軽く呑みたいけど、居酒屋は少し本格的過ぎる。そんな時、『自宅の最寄り駅近くには日高屋しかない』という人は相当な数にのぼるはずです」
ハイデイ日高が18年4月に発表した「価格改定のお知らせ」を見ると、PRESIDENT Onlineで紹介された値上げメニューは氷山の一角に過ぎないことが分かる。広報資料では30品のメニューが列挙されており、そのすべてに10円単位の値上げが行われている。
「こういう値上げが、実は最も消費者の怒りを買います。理想的な値上げは、以前よりサービスの質が上がったり、価格上昇のショックを忘れるほど美味しい新商品が完成したりした時に行うものです。日高屋さんが採った戦略は真逆で、かなりの商品を20円、30円と小幅に上昇させました。これでは『味もサービスも大して変わっていないくせに値上げするのか』と消費者の反感を買う可能性が高いのです」(同・記者)
フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏は今後、日高屋が直面するであろう「500店の壁」に注目する。
「居酒屋のワタミで業績が下がり出した時も、鳥貴族が不調になったのも、共に店舗数が500を超えて以降の時でした。企業としては安定期に入るのでしょうが、反面、社員とお客さんの距離が遠くなり、初期のような顧客ニーズを細やかにくみ上げることができなくなっていくのでしょう」
何より最大の問題は、500店舗を過ぎるころから、消費者は「何か最近、あちこちにできているな」と“満腹感”を覚えてしまうことだ。
「知名度アップが、逆に消費者を飽きさせてしまいます。ハイデイ日高は経営目標として『首都圏600店舗』を目標に掲げています。しかし日高屋は現時点でも出店が首都圏に集中しています。店舗数が400台の現在でも、首都圏の消費者は飽きを感じている可能性があります。更に、この先は本物の『500店の壁』が待っています。店舗数を増やしても自社店舗同士で顧客を食いあい、売上が伸びないかもしれません」
ハイデイ日高が全国展開を行わないのは、埼玉県行田市にセントラルキッチンを持ち、ここを起点に物流を整備しているからだという。自社競合を避けるためには、新しくセントラルキッチンを建設し、中部や関西などに新規の店舗・配送網を整備するのも一つの解決策ではある。果たしてそこまでの投資を行うかどうか――これは大きな注目点だろう。
結局のところ、日経などが報じたように、業績が好調なのは疑うべくもない。だが、PRESIDENTが指摘したように、現状が正念場を迎えているのも事実だろう。
「値上げのショックから、消極的な支持層だったビジネスパーソンの利用頻度が落ち、客数の客単価も下落するというのが、同社にとっては最悪のシナリオでしょう。そうならないためには何をすべきか、抜群に美味しい新商品を開発するのか、店舗網を再構築するのか、会社の底力が問われます」(同・千葉氏)
キーポイントは日高屋の接客だ。
「ただ注文を訊き、お皿を持って来るというロボット的な接客です。会社として積極的に訓練した成果なのかもしれません。サービスが過剰すぎても、お客さんは不快に感じるのは事実でしょう。とはいえ、やはり“過ぎたるは及ばざるがごとし”です。日高屋の接客態度はドライすぎると感じます」(同・千葉氏)
日経の記事は今後の打開策として「店舗自動化」を提案している。食券や電子マネーの導入、調理ロボットを一層充実させるなど、更に人材コストを削れという意味なのだろう。だが、この提案に千葉氏は異議があるという。
「真心はこもっているが、必要以上にべたべたしない接客を、飲食店のお客さんは最も喜ぶものです。それは、食券の券売機を置いても、電子マネーの専門店をオープンさせても変わりません。別に奇をてらったり、いたずらに改革したりする必要はないのです。外食産業の基本は『QCS』です。料理のおいしさ(Quality)、心地よい接客(Service)、清潔な環境(Cleanliness)を常に向上させる努力をすること、という大原則を忘れてはいけません」(同・千葉氏)
どうやら今の日高屋には、“客商売の原点”を省みる必要があるようだ。
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