北朝鮮「弾道ミサイル」発射の狙い 次は日本海沖に在庫処分で“スカッド”を乱射!?
北朝鮮が5月4日以降、弾道ミサイルの発射を続けている。弾道ミサイルを発射することは、国連安全保障理事会による制裁決議に違反している。当然、北朝鮮も違反であることを認識しているはずなのだが、なぜ、あえて弾道ミサイルを発射したのか考えてみたい。
1992年から交渉開始
まだ北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有しておらず、日本と韓国を攻撃可能な短距離弾道ミサイルと準中距離弾道ミサイルしか保有していなかった時期は、米国にとっての懸案事項は北朝鮮が着々と進めていた核開発だった。
そこで、北朝鮮の核開発について協議するため、1992年1月22日に実務レベルの米朝会談をニューヨークで開始し、1994年10月21日の非核化や軽水炉の提供などを盛り込んだ「米朝枠組み合意」が調印された。この間、米朝はニューヨークとジュネーブで7回の会談を行ったのだが、合意に達するまでの道は平坦ではなかった。
1994年3月19日に板門店で開かれた南北会談では、北朝鮮側代表による「ソウルは火の海」発言により緊張が高まった。同年6月13日の国際原子力機関(IAEA)脱退時は、北朝鮮外務省が「国連の制裁は宣戦布告とみなす」という声明を発表し、さらに緊張が高まった。
このように「米朝枠組み合意」調印直前の米朝関係は極度に緊張していた。実際に当時のクリントン政権(1993年1月20日~2001年1月20日)は北朝鮮への武力行使を検討する会議を開いたが、金日成主席と会談したカーター米元大統領からの「北朝鮮が核凍結に応じた」の第一報により、武力行使は回避された。
こうした緊張状態から急転直下で「米朝枠組み合意」は調印された。その後も、ワシントン、ニューヨーク、ジュネーブ、ベルリン、北京、平壌で26回にわたり米朝会談が行われ、2000年6月には金大中大統領と金正日総書記との史上初の南北首脳会談が行われた。
意図的な制裁決議違反
現在の国連安全保障理事会による制裁決議に基づいた経済制裁は、これ以上のものはないくらい厳しいものとなっている。北朝鮮はこうした現状を打開するために、より強硬な態度に出るほうが得策と考えているのだろう。つまり、弾道ミサイルを発射することにより、国連の経済制裁が北朝鮮に核兵器の完全放棄を決断させるほどの効果を上げていないことをアピールするとともに、国連とは異なる枠組みでの交渉を進めようと考えているのだ。
かつて6カ国協議という、北朝鮮の核開発について、米国、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、日本の局長級の担当者が協議を行う枠組みがあった。6カ国協議は2007年3月に北京で開かれたのが最後となっているが、これを再開させようということである。北朝鮮にとっては中国とロシアが後ろ盾となっているうえ、韓国が北朝鮮の味方をするという有利な環境にある。
実際に、2018年3月26日に訪中した金正恩委員長は、習近平主席に6カ国協議復帰の考えがあることを表明している。さらに2019年4月25日にも訪ロした金正恩委員長はプーチン大統領との会見で6カ国協議などの多国間協議の必要性について触れている。
国連安保理とは別の枠組みで協議を開始するためには、国連安全保障理事会による制裁決議を事実上無効化する必要がある。弾道ミサイルの発射はそのための手段なのだ。米国本土まで届く大陸間弾道ミサイル「テポドン」の発射は、トランプ大統領を激怒させてしまう可能性があるため、発射するミサイルは米国本土には届かないがグアムには届く中距離弾道ミサイル「ムスダン」にとどめるだろう。
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