伝統の全日本柔道で初の“両者反則失格”、前代未聞の珍事はなぜ起きたのか

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昨年も対戦

 実は佐藤と熊代は昨年の大会でも対戦している。この時は熊代が「掛け逃げ(指導を取られないため、見せかけだけの攻撃で袖を取られている引手を切ったりする)」で3つ目の指導を取られて負けた。熊代は「去年のことが頭にあったが、もっと捨て身で行ってもよかった。全日本は日本一を決める試合なのでみんな負けたくない思いは強い。でも見ているお客さんにはわからないし申し訳ない」と謝罪した。佐藤は「悔しいというか情けないです。もう少し深い所(奥襟など)を取りに行きたかった。GSになれば相手が出てくるので取れると思ってしまった」と悔いた。

「喧嘩両成敗」ではないが、勝ち抜き戦だからといって無理に細かな差をつけて何とか一方を勝ち上げようとはせずに、2人とも失格にした今回の審判。甲子園の高校野球に例えるなら、せっかく勝ち上がって対戦した2チームをともに敗退させるのに似て、勇気のいる判断だったはず。違和感を持つファンもいるだろうが、今回の審判は「なんであれがポイントなのか」とも思われがちだった「効果」を廃止して、小さなポイントを稼いで逃げまくって勝ちを拾うことを防止した、新ルールの精神にも立派に合致した判断なのだ。

 伝統大会で前代未聞の「衝撃的珍事」ではあったが、選手たちは今後より積極性が重視される国際大会で戦わねばならない。「お前たちはまだ新ルールの真意を理解してくれていないのか」と大ナタを振るった勇気ある審判団には拍手を送りたい。(敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

2019年5月3日掲載

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