伝統の全日本柔道で初の“両者反則失格”、前代未聞の珍事はなぜ起きたのか

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「断腸の思い」

 全日本選手権での両者反則負けは前代未聞。大迫明伸審判長(58)は「2人とも全然攻めようとしないので主審は試合を止めて、このままだと(3度目の指導が)いくよと、ギリギリのチャンスを与えた。あれ以上は延ばせない。断腸の思い」と話し、「日本の独自の大会なので、できればどちらかが積極的になって片方の反則負けか、技によるポイントでの決着を期待したが。でも、この大会に出てくる選手なら、そんなルールは知らないというわけにはゆかない。2人とも負けにしてしまうのは辛いが、あそこまで攻め合わない、組まないでは」と苦渋の表情だった。

 全日本出場3度目の佐藤は優勝候補の一角とされたダークホース的存在だった。佐藤が右組、熊代が左組と喧嘩四つのため、互いに襟を取ったまま半身で引手(袖)を取り合う格好が続いたが、佐藤の方が攻めようとしていた印象で熊代は引手を取れてもほとんど技をかけなかった。

 少し前までこの大会は「講道館ルール」という日本独自のルールが適用されていたが、国際試合で勝てなくなるため国際柔道連盟(IJF)のルールを導入した。さらに4回で失格だった「指導」が3回で失格と厳しくなっていた。

 柔道では技をかける瞬間に「隙(すき)」ができやすく、返し技が怖い。大外刈りなどは技をかけられた側も同じような形となり返されかねない。このため以前は、危なくなるとすぐに逃げられる「場外際」でしか技をかけなかったり、組み手争いに終始するなどの「消極策」が横行し柔道の魅力を失わせた。

 このため全日本柔道連盟は、引き手を切りやすいように柔道着の袖を短くすることを禁じるなど様々な改革で、「一本」や「技有り」を増やしてファン層は拡大した。今大会も普段は100キロ級以下で活躍する選手が多彩な技で巨漢選手を投げ飛ばして会場が大いに沸いただけに「珍事」は残念ではあった。

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