孤独死した「飯島愛さん」 大ベストセラーが生んだ悲劇を振り返る【平成の怪事件簿】
なぜ彼女は芸能界から消え去ったのか。そしてなぜ独り寂しく死ななければならなかったのか……。飯島愛さん(以下、敬称略)の逝去は、平成芸能史に刻まれる“事件”である。(上條昌史 ノンフィクション・ライター)
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部屋は床暖房が付けっぱなしで暖かく、死後1週間ほど過ぎていたせいで、遺体はすでに腐敗が始まっていた。
頭部の重みで圧迫された顔面は、歯が唇を突き破っている。わき腹部分も腐敗して、内臓の一部がはみ出していた。
これが、水商売からAV嬢を経て、芸能界に転身、人気マルチタレントにまで駆け上がるという波乱の人生を送った彼女の最期の姿だった。
かつて飯島愛(享年36、本名:大久保松恵)は、大ベストセラーとなった『プラトニック・セックス』(小学館)について、「新潮45」2005年5月号でこう語っている。
「ある時『本を書いてみたら?』と事務所の社長に提案されたんですよ。『プラトニック・セックス』で、私は初めて自分の人生を振り返りました。しかし、筆はなかなか進まなかった。嫉妬や憎しみでいっぱいの卑しい汚れた過去を認めるのは辛いことでした。身体が拒むんですよ。偏頭痛が止まらなかったり、吐き気をもよおすの。勇気を持ってそれを認められた事が今の私につながっていると思う。私は頑張った。ありのままの自分を認めることで、新しい行動を起こせるのではと思います。そう判った時が私にとって一つの転機だったのかもしれません。自分を美化したり、逃げ道を探しても、何も変わらないじゃないですか?」
AV出演や性感染症、整形手術をしていたことをカミングアウトした『プラトニック・セックス』は、2000年11月に発行され、170万部を超えるベストセラーとなった。映画化やテレビドラマ化もされた。このブレイクを機に、AV女優のイメージが強かった飯島愛は本格的なマルチタレントに成長していく。
だが「新潮45」に「新しい行動」への意欲を語った約2年後の07年3月、彼女は突然芸能界から引退した。腎盂炎という病が理由だとされたが、実情を知らない周囲にとっては、謎でしかなかった。
そして08年暮れ、彼女は遺体となって発見された。世間がクリスマス気分にわく12月24日。渋谷駅から徒歩5分ほどのインテリジェントビルの最上階、80平方メートル・1LDKのリビングで、椅子から転げ落ちたようにうつぶせに倒れ、息絶えていた。
変わり果てた彼女の姿を見つけたのは、数日間連絡がつかないことを心配した個人事務所の女性事務員で、管理人と一緒に合鍵を使って部屋に入り、彼女の遺体を発見したのだった。室内からは医師から処方された睡眠導入剤のハルシオンなどが見つかった。
遺体発見後、彼女の死にまつわる噂や憶測が、いくつも流れている。いったい彼女に何が起ったのか。本当の死因は何だったのか。
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