韓国人男性が日本のAmazonに「★1つ」のレビューを投稿しまくる珍現象はなぜ起きたのか
すごいモチベーションを起こさせる本
訳者の斎藤真理子氏も次のように語ってくれた。
「本当に、大した内容ではないと思うのですが、反発がかなりありますね。面白かったのは、発売間もないころに重版がかかり、そのことが韓国でも報道されたところ、韓国人がAmazonにどんどんレビューの書き込みをしていたことです。目の前でどんどんレビューが増えていくのですがそれがすべて★1つか★5つのどちらかだったことです。今は、★1つのレビューのいくつかは消されてしまいましたが、1晩で10~12ぐらい、韓国人のレビューが入ったのです。非常に面白い見ものでした。そんなことをしてまで貶めたいというのは、すごいモチベーションを起こさせる本だと思いました」
ちなみに、現在でもAmazonのレビューには韓国人男性の書いたものと思われる書き込み(韓国人独特の日本語表現があるので、それとわかる)が残っている。
「虚構の小説である本です。もちろん、主人公のキムさんが経験したこと自体は、女性としてあり得る話だが、この本ではすべてを一般化するのが問題だと思いました。この本のせいで韓国では男女嫌悪の社会問題ができました。女性のために書かれた本とは言えないです」
前で引用した韓国人男性の感想とほぼ一致する。どうしてこのような否定的な反応が現れるのか、その背景についても韓国人男性に聞いて見た。
「以前にあった男性権威主義がなくなった20代~30代の韓国男性には小説に対する嫌悪感があるでしょう。以前は、相続時に長男の取り分が大きかったり、男子は兵役がある代わりに公務員試験では加算点があったりしました。今はそういうこともなくなったので、女性に対する抑圧ばかりを述べても若い世代には共感を得にくいのかも」
確かに、韓国も以前ほどの男性優遇社会ではなくなっている。主人公であるキム・ジヨンが生まれた37年前と現在とでは韓国国内の状況は大きく異なる。伝統的な男児優遇は少子化の影響もあってほぼ消滅した。当然、きょうだいの中での男児優遇も過去のものとなりつつある。大学の進学率も男女でほぼ差がない。そうした状況下で育った若い世代の男性は作品の内容にそれほど共感しないのではないか、という分析である。
もう一つの分析は「あまりに男性を否定的に描きすぎ」「男性をステレオタイプ化しすぎ」というもの。
「この小説には二つの内容が含まれています。一つは韓国の男性中心主義(特に祖父母・両親の世代)に対し、女性の権利や平等を主張する内容。もう一つは、男女間の葛藤の激化や増幅をもたらす恐れのある内容。この作品に登場する男たちは非常に男性中心主義的で、女性に対する配慮がまったくなく、言語の暴力もためらわない。こうした描写は男女間の葛藤をより増幅させ、女性の権利伸長には結びつかないのではないかと考えました」
韓国には地域間の反目、貧富の格差、保守と進歩の葛藤といった様々な対立軸があり、最近はそれに男女の対立が加わりつつある。作品における否定的な男性描写が「どうせ男ってこんなもの」というステレオタイプを固着化させ、「全部が全部そんな男ばかりじゃない」「あまりにも男性を極端に描きすぎ」という反発を呼びおこし、新たな葛藤を生み出す恐れがあるという指摘である。
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