「ゴーン無罪」の理由~古巣批判の元特捜検事「郷原信郎」vs.会計士界のレジェンド「細野祐二」2万字対談
「重要な事項」と言えるのか
郷原 会計的に、これを役員報酬として計上するっていうのはもう絶対おかしいと思うんですよ。
細野 絶対おかしいです。
郷原 ただ、その会計の外のところですね、たとえば、「内閣府令上の開示義務」みたいなところから見てみると、犯罪の成否に若干関係するのかもしれませんが。
細野 いえ、内閣府令も会計基準ですから。それでも該当しない。
郷原 それを検察の理屈で「役員報酬に該当する」と仮に言えたとしても、もう一つのハードルがある。有価証券報告書の虚偽記載罪というのは、「虚偽の記載をすること」が犯罪なのではなく、重要な事項について虚偽の記載がある有価証券報告書を「提出」することが犯罪とされています。これは「重要な事項」と言えるのかと。
細野 重要じゃないですよ、そんなの。
郷原 しかも、検察のこの理屈が一番おかしいのは、「もらってない報酬ともらった報酬を合算して計上しろ」っていうところです。これ、投資家からしたら意味不明です。一体、その年にいくらの役員報酬をもらったのかが分からなくなってしまいます。「もらった役員報酬とは別にもらってない退任後のものもありますよ」という付記をするのならまだ分かるんです。もらってないものも書いておきなさいって言われるのであれば、しかし、「将来もらう予定の報酬」だけを切り離して考えれば、それが投資判断にとって「重要な事項」であるはずないじゃないですか。何重もの意味で、有価証券報告書の虚偽記載になるわけがないんですよ。
細野 おっしゃるとおりですね。それで、今度は2月になって、西川さん(廣人社長)が記者会見に出て、「やっぱりあれ、引当金を計上することにしたんだ」などと話した。それはそれでいいけれど、そしたらその後に、「支払うという結論に至るとは思っていない」とか言うわけです。ばかじゃないの? 払うつもりがないんだったら引当金にならないじゃないの。
郷原 これ、虚偽記載ですよね。
細野 虚偽記載。払うつもりもないような役員報酬の引当金を計上した。これを有価証券報告書の虚偽記載というんです。意図を持ってやってるんだから。なんちゅうこと言うのですか? となりますよ。
郷原 その西川氏の話になりますけども、今回、ゴーン氏の事件で、西川氏のことを何回かYahoo!ニュースで書いたんですよ。例えば、最初に2015年までの5年分の虚偽記載でゴーン氏を逮捕して、その後に直近3年分の虚偽記載で再逮捕したことについて、同一の意思、同一の目的で毎年繰り返されてきた一つの行為(犯罪)であるという見立てなのに、それをぶつ切りするみたいなやり方があるかと。こんなものは検察の捜査としてあり得ないという話を書いたんです。しかも西川氏は直近2年分はCEOじゃないですか。
細野 西川氏は有価証券報告書の作成責任者でしょう。
郷原 作成責任者ですよ。なんでこの人が逮捕されないで……。
細野 ともすると、彼が虚偽記載の主犯じゃないですか。
郷原 その話とか、先ほど出た引当金のことも含めていろいろ西川氏のことを書くと、すごいページビュー数が伸びるし、論旨に反対を表明するコメントがつかないんですよ。「西川は許せない」、「ゴーンも悪いけど西川も悪い」というようなコメントばっかりなんです。ゴーン氏の評価については、いろいろありますよ。「あんな役員報酬もらってるのがけしからん」とか、「検察も悪いかもしれないけども、やっぱりゴーンは悪党だから」というコメントが結構あるのですが、西川氏のことを書くとみんな私の意見に同意で、コメントも批判的なものはほとんどないんです。
みんな思ってるんですよ、やっぱり西川氏はおかしい。5億円近くもらってるじゃないですか、西川氏。(払うつもりのない役員報酬の引当金を積むという)虚偽記載までするんでしょ。
細野 検察と手を握ってるからね。
郷原 そうなんですよ。
細野 結局、直近の3年分ですか、あれについては主犯が西川さんで、ゴーンさんは共犯、あるいは幇助犯にしかならない。共犯あるいは幇助犯を捕まえて、主犯はお構いなしです。そんなばかな話がありますか。烈日秋霜が聞いてあきれます。なぜそうなるのかといったら、検察にとって西川氏は“友達”だから。情報を渡してそれで事件作ってるんだから。裏返せば西川氏は自白してるようなものでしょう。ひどい。これ言いだすとキリがないんだけどさ。
無理筋の「特別背任」
郷原 そこで次に特別背任の話なんですけど。これは3番目の驚きでしたね。これまで述べてきた通り、有価証券報告書の虚偽記載については、一つの罪を二つに切り分けるという形になり、それは勾留期間を水増ししてるだけじゃないですか。裁判所は勾留を認めたけども、延長請求は却下した。これはある意味じゃ当然なんですけど、細野さんの昔の事件もそうでしたが、特捜の事件に対して裁判所はまともな判断を放棄しちゃうんです。判断できない。異を唱えられない。ところが、ゴーン氏の事件では、いくら当たり前のこととはいっても、裁判所が特捜にノーと言ったというのは驚きでした。本当に歴史が変わるのかなという感じがした。そうしたら特別背任で再逮捕ということになった。検察の本領発揮でしたよね。
細野 驚きという意味ではもっとすごいよ、これは。
郷原 特別背任の可能性ということでは、最初に朝日が11月27日に1面トップで書いたもので、「ゴーン容疑者が2008年、私的な投資で生じた約17億円の損失を日産に付け替えていた疑いがあることが分かった。特別背任などにあたる可能性がある」というものがあります。いくら何でも特別背任を再逮捕のネタにはできないだろうと、私はすぐに記事を書きました。そもそも10年前の話です。特別背任の時効は7年ですから、ゴーン氏は国外にいた期間があるといっても、まず時効じゃないですか。また、形式上、評価損的なものがあったとしてもそれは一時的なものであって、最終的には会社に損害なんか与えてないはずです。特別背任の立証は本当に難しくて、会社を破綻させたとか、膨大な焦げ付きを作っちゃったとか、やっぱりそれで結果が重大だからそういう事態を招いた経営者の責任が問われるという場合とか、あるいは、何とか製紙の御曹司みたいに……。
細野 大王製紙。
郷原 そうですね。カジノで会社のカネを100億円も使ってたとか、そういうことならまだ特別背任とか分かるけれども、損失も発生してない、自分の個人的な利益になってもいないようなものを取り上げて特別背任になるわけがないじゃないかと言っていたんです。それはともかく、「付け替え」について細野さん、お願いします。
細野 特別背任での再逮捕は12月21日ですね。それで私、『JBpress』というウェブメディアに、この件が「スワップ」だと全く理解されていないことについて書いたんです。有罪だ、無罪だ、いろいろな論評があるんだけれど、スワップってことが分かっていない。分かっていなくて立件してるんです。それでスワップってこういうことなんですよっていうのを書いたところ、大変な数のヒット件数になったんですね。
この事件でおかしいのは、通貨スワップ契約で18億5000万円の損が出たっていうところです。だから付け替えたって言うんだけど、ゴーンさんは損なんかしていません。分かりにくいかもしれませんけれど、スワップっていうのは、もともと先物外国為替と直物外国為替のセットなんです。先物でドルを売ると同時に、同額のドルの直物を買う。ユーロを直物で100万ユーロ買ったら、100万ユーロの先物を売る。このセットをスワップっていうんです。直物と先物の交換(スワップ)取引のことなのです。
では、なぜそういうことをやるかっていうのはいろんな動機があるんですけれど、その一つがリスクヘッジなんですよね。今、現物で非常に大きなドル資産を持っているとします。ドルが下がると困っちゃう。だから先物で売っておくとヘッジになります。ゴーンさんはこれと同じことをやっただけです。
為替で18億5000万円の損が出ていて、それを付け替えたみたいなこと言うんだけれど、あのときはリーマンショックで約17.6%の円高になっています。18億5000万円の想定元本っていうと、約105億円になる。もともとゴーンさんは、ドルを基軸通貨として生きている人で、だから円貨建てエクスポージャー(円貨建て資産と円の受取キャッシュフローの為替変動リスク)を管理するため、新生銀行と為替の管理契約を結んでいるわけですよ。その一環として新生銀行がスワップをやってるわけで、先物の105億円があるのであれば必ず直物の105億円が存在するんです。ここで、18億5000万円のロスが先物で出たって言うんでしょう。ならば直物は必ず18億5000万円の利益が出ています。ゴーンさんは、もともとヘッジのためにやったんだから、損などしているはずがありません。損をしていないのに損を付け替えようとするわけがないでしょう。
なぜこういうことになったか。そのときに証拠金を入れていたわけです。105億円の証拠金っていうと、大体30%ぐらい、つまり30億円ぐらい要る。恐らく、ゴーンさんは日産の株式を持っていて、当時の株価からすると、ちょうど30億円ぐらいになる。多分、ゴーンさんは、「俺の持ってる日産の株でいいだろ」と言ってこれを証拠金に入れていたと思います。
リーマンショックの際に、円高になっただけじゃなくて、株も下がりました。30億円の日産株が15億円ぐらいになって、ゴーンさんは新生銀行から証拠金が足りませんってことを言われたはずです。だけど、証拠金が足りないからって、なんで日産に付け替えるの? 日産に付け替えたら日産が証拠金出すんですか。出さなかったじゃないの。
つまり、関係ないんですよ。全体のスワップ契約のリスクはゼロですよ。円高になったけれど直物で利益が出てるわけですから、トータルでノーリスクなんです。証拠金っていうのは形式上入れているにすぎない。そこを付け替えるというのは、証拠金の問題があったからではなく、新生銀行がそれをチャンスに日産との取引が欲しかっただけだと思います。いずれにせよ、ゴーンさんは損なんかしてないのに特別背任って……ばかげていると思いましたね。
郷原 だから最終的には……。
細野 結局、ゴーンさんは毎年入ってくる約10億円の役員報酬をヘッジしたかったんでしょう。5年分のキャッシュフローと円貨建て現物資産の合計100億円分の為替リスクのヘッジ。ゴーンさんは役員報酬を「ドルでちょうだいね」って言っているんだけど、日産は「それはできません」って断ったから、じゃあしょうがないから円で入ってくるキャッシュフローをドルの先物でヘッジするしかない。だって彼はそれをドルで使おうと思っているのですから。
日産の取締役会も、このスワップ契約を「外国人の役員報酬を外貨に換える投資」として決議している。役員報酬を運用するときのヘッジということですよ。
郷原 実質的にはそういうことなんですね。
細野 そういうことなんですよ。あの時の日産の取締役会決議は、なにも当時の秘書室長が嘘ついて役員会をだまして決議を採ったわけじゃないのです。
郷原 全体としては役員報酬のヘッジという目的だった。それを包含した形で取締役会の承認を取ったことが、これがだましたというような話になってしまっているわけですね。
細野 なんでそうなってしまうのか? ゴーンさんは「ドルでちょうだいね」と言ったんだけど、日産は「それはできませんね」って言うから、「俺はドルで生きてる人間だから、じゃあ俺のほうでヘッジして、スワップかけるから、そのための決議してちょうだいね」って、大変ごもっともなことじゃないですか。
郷原 そのためにいろんなややこしいことが生じて、スワップの先物の部分が評価損で……。
細野 先物だけ移した。
郷原 先物で評価損を生じていたところからこういう問題が発生したけれど、もともとその評価損というのが、損失として現実化する可能性は非常に低かった。ただ、担保の価値が下がっちゃったということで、形式的には追加しないといけないっていうことになった。そこで、取引の名義がゴーン氏のままだったら追加しなくちゃいけなかったのを、日産に名義を移したので追加で証拠金を入れなくてもよかった。
それに加えてもう一つ、勾留理由開示手続きのときに出てきた話として、「いかなる場合においても日産に損失は生じませんよ」という新生銀行と、日産と、ゴーン氏との間の三者合意があった。これはつまり、二重の意味で損失を与えないということが担保されてたってことになるんですよね。
細野 そうですよ。スワップでヘッジやっていて、直物のキャッシュフローで利益が出ており、役員報酬が入ってくる。トータルすれば損はない。その中の先物だけを移したら、名目上、評価損になるってわけですから、「そしたら入ってくるキャッシュフローで益が出てるんだからそれで補填する」というのは大変ごもっともなことです。
郷原 まあそういう合意をしていたというのは、(当初、弁護を担当した大鶴基成)元特捜部長なんかはすごく重視するんですね。「あの三者合意があったから、損失は生じないんだ。従って犯罪にならないんだ」って大鶴氏はそこを強調したんですけども、細野さんに言わせると、それ以前の問題として、そもそもが損失が発生するスキームなんかではないんだということなんですね。
細野 損失などないんです。損失なんか発生してない。担保で入れていた日産株が下がって証拠金は減ったかもしんないけれど、別にスワップ契約のリスクが変わったわけでも何でもないんで、新生銀行としてはそんなもの本当は要らなかったと思います。移したのは多分、日産に対するビジネス上の思惑が新生銀行にあったからだと思います。
郷原 そういうことがあったとしても、そもそも関係者たちはもう時効ですから。なんのお咎めもなしですからね。
細野 特別背任だなんて、なんちゅうことをするんだって思いましたけれど。大阪地検特捜部のあの証拠改ざんともう同じ。
郷原 実態はほとんど同じですよね。
細野 同じ。
復讐に転じる!?「サウジアラビア」側
郷原 (有価証券報告書への報酬過少記載の疑いで逮捕・起訴されていたが)12月20日に勾留延長請求が却下された。このままだと保釈で出てしまう。特別背任も何もなしで保釈で出ちゃったら、退任後の役員報酬の問題だけで30日も勾留されたことになる。世界に対して日本の検察のでたらめさが発信され、「なんだ、こんなの犯罪じゃないんじゃないか」という声が高まり「検察捜査」は崩壊、ぼろぼろになります。何とかしないといけないということで、突然出てきたのがサウジアラビアの話。
細野 ゴーンさんの知人のハリド・ジュファリさん。
郷原 これをくっつけてきたんで、さらに訳が分からなくなったんですね。付け替えだけは報じられていたけど、それに新たな話が付け加わったわけです。しかもそのストーリーと一体になってこの「ゴーン事件」は完結するんだという話になって、これがまたちょっと……。
細野 特捜部は虎の尾を踏んだと思います。ハリド・ジュファリなんて。サウジアラビアって、あなた、国家の運営っていうか、部族っていうか、法律もそうなんだけれど、いまだに目には目のハムラビ法典をやっている国ですよ。
そんな国のハリド・ジュファリなんて、財閥創業家出身で、サウジ有数の企業の副会長で同国の中央銀行理事も務めている。それを本人の話も聞かずに特別背任の共犯にしているわけです。大変なことをしてしまいました。ゴーンさんが保釈で出た後も、特捜部はこの捜査を継続して、一生懸命、外務省だとか、サウジアラビア政府に働き掛けて、何とか「ハリド・ジュファリの聴取を」みたいなことをやっているらしいけど、サウジは絶対やらない。こんなことはアラブ国家として許せない。特捜検察もえらいことやっちゃったと思いますね。
まあどういうふうになっていくのか分からないけれど、なんか話によると、ハリド・ジュファリが日産を訴えたいって言ってるらしいんだよね。もう全くごもっともで、だって話も聞かずに一方的に、特別背任の共犯にされちゃって。必ず復讐してきますよ、これは。
郷原 結局それがどういうストーリーにされたかというと……いったん日産に付け替えられた損失が、当局からこれは違法だとか、問題があるとか言われたんで、ゴーン氏のほうにまた戻すことになった。で、戻すためにはまた担保が要ると。その担保を差し入れて協力してくれたのがジュファリ氏。そのジュファリ氏のところに、その後、16億円ですか、お金が入ってるから、これが担保を提供してくれた謝礼だっていうんですね。だからこの、ジュファリ氏に送ったお金が、これが日産の損失で、結局、もうけたのはジュファリ氏だったという話になってるわけです。今回の特別背任は、これが会社の損失だと言ってるわけです。
細野 それはジュファリの話を聞かないとどうしようもないじゃないですか。
郷原 そういう話ですよ。
細野 彼は、なんか「中東日産」や「日産ガルフ」などを通じ、中東で日産のために一生懸命いろいろやっているじゃないの。少なくとも本人の話を聞かなければどうしようもないでしょう。
郷原 そうですよね。
細野 それと、やっぱりビジネスのやり方がアラブは違いますから。ドバイに行かれた方なら分かると思うけど、あそこの高速道路だとか、走っている車なんて半端じゃありません。片側6車線なんですよ。そこをフェラーリだとかあの手の車がものすごい高速でばんばん走っていて……。それでも全く怖くない。広いから。なるほど、こういう車っていうのはこういう所で走るんだと、本当にそう思いますよ。高速道路はフェラーリだけど、砂漠地帯はトヨタのランドクルーザーが走っています。ラクダは観光用です。日産はあのマーケットで車を売りたかったでしょう。売り方はこつをつかんだら簡単で、あそこは部族国家ですから、部族を押さえれば車は必ず売れます。それがアラブの正義なのです。
16億円もらってそれが謝礼金ってばかなこと言ってはいけないです。これね、もらってくれただけで日産にとっては大変なビジネス上のメリットがあるのです。これが特別背任? 何をばかなこと言って。考えられない。もうこんな話は日本で言うからそうなんであって、もうヨーロッパは、ビジネスはアラブのことよく知ってますね。
郷原 だからヨーロッパに住んでる人は笑ってますよね。
細野 笑っちゃいますよ。
郷原 本当、何をばかなことを言ってんだと。そこでやっぱりヨーロッパの人たちが言うのは、中東のビジネスというのが分かってるのかと。どういうことをして車が売れるのか、中東での自動車の販売がどうなってるのか分かってるのかという指摘をツイッター上でしてる人が結構いたんですよ。やっぱり中東っていうのは闇の世界だなというふうに思うじゃないですか。
細野 闇の世界でインチキばっかりやっているというわけでは、もちろんありません。アラブはアラブの理屈があるのです。「目には目を」のハムラビ法典にしたって、人間の自然な報復感情として分かりやすいじゃありませんか。これも一つの理屈でしょう。文化も違う。宗教も違う。日本という隔離された村社会のビジネスの考え方で捉えて特別背任だとか、こんなヘリクツこねるとえらいことになると思うけどね。特捜部、やめといたほうがいいと思いますよ、もう手遅れだけど。
郷原 でもとにかくそうまでして何とかゴーン氏を、拘置所に閉じ込めときたかったんですよ。で、付いた弁護人が悪かったこともあって、何回も保釈が却下されて、勾留が100日を超えることになりました。恐らく特捜部は200日でも300日でも勾留したかったんでしょうけども、最後、結局、身柄拘束って裁判所の責任ですからね。だって法務大臣も国会で言ってるじゃないですか。裁判所の判断を受けて適切にやってるだけだと。本当は実態違うんですけど、そういうことだから、やっぱり裁判所も、不当な身柄拘束ということになると、最終的に責任を問われるのは裁判所ですから、ゴーンの勾留の長期化は、やはりまずいということになったのでしょうね。
細野 私、大鶴先生と割と親しいんですが。
郷原 そうですか。
細野 最初の保釈申請のときに、大鶴弁護士は、「住居をフランスに定めたとしても、ゴーンさんは必ず日本に戻ってくる」、「自分の無実を晴らすために戻ってくる」というようなことを言っていますよね。でもこれって、海外逃亡するって言っているのと同じで、これで裁判所が保釈なんか出すわけがありません。こんなこと弁護士が言うっていうのはちょっと考えられません。だから大鶴先生では駄目。非常に優秀で、すごいいい人なんです。すごくいい人なんだけれど、あれでは駄目なんだな。
郷原 そうですね。だからやっぱり保釈の問題は本当にぎりぎりまで罪証隠滅の恐れがないっていうことを詰めていって、否認事件で保釈を勝ち取った経験がある人間じゃないと駄目ですよ。恐らくその経験が一番豊富なのが高野(隆)弁護士だと思いますよ。あの人はそういうスキルを持った弁護士ですから。そういう意味では、ゴーン氏はいい人選びましたね。保釈を獲得するためには。
細野 出てきたときになんか変装……。
郷原 それがちょっと余計だった。
細野 ばかじゃないのと思いますよ。
郷原 なんか別の考え方もあるんですけどね。ゴーン氏は「強欲ゴーン」とかいってすごい偉そうにしてるイメージだから、あのマスクと作業帽の雰囲気で、何となく庶民的でいいんじゃないかと言う人もいるんですよ。イメージ的に。
細野 そうだとしても、あの帽子、他人の会社のやつなんでしょ。感心しないね。
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