尾野真千子が自己肯定感ゼロで孤独死していくドラマ「絶叫」
自己肯定感の低い人が見事に取り込まれ、犯罪に利用されて人生を台無しにする様を、やたらと目にした1週間だった。なるほど、こうして言葉巧みに不安感や絶望を煽られて、オルグされて犯罪に加担していくのかとやるせない気持ちに。
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NHKスペシャル「詐欺の子」(3月23日放送)は振り込め詐欺の構図をドラマで再現。若者(しかも中高生)の射幸心や不公平感を煽り、高齢者から金を騙し取ることを正当化して教え込む、手練れの犯罪者。捕まるのは若者で、首謀者はぼろ儲けを繰り返すという構図。過去15年で被害額は4790億円、に慄(おのの)いた。
自己肯定感が低いのは中高生だけではない。ある女が孤独死し、猫数匹に遺体を荒らされていた、という衝撃的な始まりのドラマがある。WOWOW「絶叫」だ。
主演は私の大好きな尾野真千子。息子だけを溺愛し、娘の尾野を事あるごとに言葉で傷つけてきた母・麻生祐未。おかげで尾野は自己肯定感ゼロ。弟は交通事故で亡くなり、父は多額の借金を作って失踪、家を追われるという憂き目に遭う。結果、ふたりは家族を解散。
尾野は1人暮らしを始めるも、派遣社員で生活は苦しい。職安前で奥貫薫から誘われた生命保険営業の仕事に就くも、ノルマが厳しく、ブラック企業でもある。おまけに上司の要潤は生保レディを食いまくり、成績が下がるとポイ捨て。パワハラ&セクハラやりたい放題だ。契約を取れない尾野は自らが保険に加入する自爆で凌ぎ、客(濱津隆之)から枕営業を打診される始末。
真面目な人ほど擦り減る業界。頑張っても成果を出せず、男の不埒な性欲に魂を削られ、貧困から抜け出せずに、もがき苦しむ尾野。ふと耳にした「棄民」なるパワーワードが彼女の人生を奈落の底へと導いていく。
あ、尾野は冒頭では腐乱死体で登場。これを孤独死と片付けられず、彼女の軌跡を辿るのが刑事の小西真奈美だ。明日は我が身、他人事と思えず調べるうちに、もうひとつの殺人事件と繋がる。極道・安田顕が無残な遺体で発見されたのだ。
安田はホームレスに声をかけては生活保護を受給させ、ピンハネする貧困ビジネスを手掛ける阿漕(あこぎ)な極道。社会に見捨てられた「棄民」を救いたいなどと言葉巧みに弱者の心をくすぐる。前科もちホームレス・六角慎司もそのひとりで、安田に救われたと心酔する舎弟だ。
どうやら尾野は安田と関係があり、殺害にも関与しているようなのだが、今後の展開で明らかになる模様。
とにかく、自己肯定感の低い人は甘い言葉や小さな優しさにすこぶる弱い。褒められたり、認められた経験値が少ないと、あっという間に犯罪に利用される。加害者だが犠牲者でもある。
逆に、麻生も奥貫も要も濱津も、無意識であろうとなかろうと、尾野が疲弊して堕ちてゆく過程に加担した人として描くところが奥深い。誰も傷つけない人なんて、この世にいないのだ。
疲弊・貧困・孤独を食い物にする非道な輩(やから)に怒りを覚えつつも、もしや自分も知らぬ間に加担してはいないか、と考えてしまった。