「朝青龍」という存在感、「稀勢の里」の美 識者が選ぶ「平成の大横綱」は誰だ

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論評の域を超えた美しさ

 そんなベテラン相撲記者が一票を投じたのは、平成最後の横綱、稀勢の里だ。

「正真正銘のガチンコ横綱。学生相撲出身の力士が増える中、稀勢の里は中学卒業後にすぐに相撲界に入った、“昔の相撲道”を継承した存在です。本来の日本の相撲の原風景を感じさせるような、土臭い横綱が平成の最後に誕生したことは、やはり特別な意味があるように感じます」

 ベテラン相撲記者はそう語る。

「彼はいつだって真面目に稽古を行います。白鵬の場所前の“調整”とは比べ物にならないような本気の稽古に日々取り組んできたのです。彼は引退会見で、“一番心に残っていることは”と問われ、“ありすぎてなかなか思い出せませんが、やはり稽古場が僕を強くしてくれました”と答えました。何よりも稽古を重んじる彼の姿勢には力士としての魂が感じられます」

 スポーツ評論家の玉木氏もやはり稀勢の里に一票を投じたが、奇しくも、ベテラン相撲記者と玉木氏が挙げた名勝負は2番とも同じだった。白鵬の連勝を63で止めた10年11月場所の一番。そして、17年3月場所の照ノ富士との優勝決定戦だ。

「白鵬の連勝を止めた一番はものすごい取組だった。ビンタなど何でもありの白鵬の猛攻を全ていなして、最後に寄り切る。あれは見ごたえがあった。また、17年の優勝決定戦も素晴らしかった。その相撲の美しさは、論評の域を超えていますよ。桜の花がなぜ美しいか説明しようとするなんて、野暮なことです」

 そう語る玉木氏は、稀勢の里の相撲人生をこう評する。

「なかなか上に上がれない稀勢の里を見ていて、不満も山ほどあった。ファンの方もそうだったと思います。そんな苦しい時期を乗り越えて、最後にパッと花を咲かせたのが、彼の相撲人生だったのでしょう。咲いては散るを繰り返し、最後に花を咲かせた時期も短かった。でもそのぶん、咲いた時の花の美しさは他にないものがある。長く咲いている花など、勝手にやってくれ、なんて思ってしまいますね」

 平成最後の場所も白鵬の優勝に終わった。だが、真の意味で平成の相撲に幕を下ろしたのは、記録ではなく記憶に残る横綱、稀勢の里だったのかもしれない。

週刊新潮 2019年4月4日号掲載

特集「相撲記者・好角家がガチンコ検証! 『貴乃花』か『白鵬』か!? それとも…『平成の大横綱』の称号は誰の手に」より

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