「朝青龍」という存在感、「稀勢の里」の美 識者が選ぶ「平成の大横綱」は誰だ
「平成の大横綱」の称号は誰の手に(2/2)
“平成の大横綱”と呼ぶのにふさわしいのは誰か。スポーツ評論家の玉木正之氏、東京相撲記者クラブ会友の大見信昭氏、相撲ジャーナリストの中澤潔氏、漫画家のやくみつる氏、ベテラン相撲記者、角界ジャーナリストの6人の投票結果は掲載表のとおりである。
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最多の3票を集めたのは貴乃花。角界ジャーナリストは2002年9月場所の貴乃花と朝青龍の一番を「名勝負」に挙げる。
「新大関の朝青龍は、まさに横綱にのぼりつめていく過程の真っただ中で、真面目に稽古もやっていて、キャリアの中で最も強かった。そして、この後、翌場所から2場所連続で優勝を果たし、横綱になるのです」
要するに、上り調子で向かうところ敵なしだった朝青龍と、ケガで7場所連続休場から再起した、満身創痍でボロボロの状態にあった貴乃花が対戦したわけである。
「貴乃花は見るからに体が絞れておらず、全盛期とはほど遠い雰囲気だった。右ひざのケガは治っておらず、片足で相撲をとっているようでした。しかし、朝青龍が突っ張りから双差しになって寄ったにもかかわらず、貴乃花が右上手投げで勝ってしまったのです」
と、角界ジャーナリストが続けて語る。
「ある親方が、“あの時の貴乃花に勝てなくて、全盛期の貴乃花にどうやって勝つんだ”と言っていたように、この一番も貴乃花がいかに強かったのかを示しています。ただ、負けて興奮し、帰りの花道で声を荒げて叫ぶ朝青龍もすごかった。迫力満点で、まさに平成の名勝負といっていい。この後しばらくして、朝青龍と白鵬が優勝争いをする時代になりますが、全体のレベルの低下により、“面白い相撲”が減っていきました」
ベテラン相撲記者は、
「実は、“平成の大横綱”は誰かと問われて最初に思い浮かんだのは、朝青龍でした。彼の相撲はとにかく勢いがあってスピード感に溢れている。一瞬も止まることなく、まさにスポーツとしての相撲の面白さを見せてくれました。また、モンゴルからやってきた男が毒を吐き、周りに憎まれながら、それでも頂点に君臨し続ける様は、それまでの相撲界にはなかったものでした」
とした上で、こう語る。
「しかし、朝青龍の名勝負を挙げよと言われると、なかなかこれといった取組を思い浮かべることが出来ない。彼が活躍したのは強い力士がいない時代でしたから。それに、横綱というのは強さだけが全てではない。不世出の力士である双葉山が今も語り継がれるのは、強さだけではなく、横綱としての器が素晴らしかったからです。そういう視点で考えると、どんなに強くても朝青龍の振る舞いには目に余るものがあった」
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