「田舎暮らし」の孤独に耐えられない移住者 全共闘世代が誘い込む市民運動の罠
何のための田舎暮らし?
それから、少し時間が経った頃――。
「ほかにも移住者の友達が来るからって誘われて行ってみると、なんだか単なる会食というよりか、『中部横断自動車道反対』とか、『アベ政治を許さない』とか、そんなプラカードを作っているので、ちょっとこれは、もしかしてと思ったんですが……」
その家に集う移住者らは、「憲法9条を守る会」のメンバーらでもあった。
「要するに、左翼活動というか、反体制の革新がかった活動をしていたんですね。私たちは移住先に、まんまとそこに呼び込まれてしまったというか……。結局、私はそれから多忙を理由に付き合いに一線を引くようになったのですが、家内はやっぱり声をかけられると、どうしても断り切れないようです。女性同士の付き合いは、また男とは違って難しいんでしょうね」
大挙して移住者が流入してくる地域では、市民活動と称した革新活動が急速に拡大しつつある。“都会者”の大量流入に伴い、あたかも内戦さながらに、地元保守派と移住革新派という対立が起きているという。
移住革新派は、ほとんど歩行者などいない田舎道の交差点に立ち、数少ない通行車両のウィンドウに向かって「アベ政治を許さない」などとプラカードを掲げている。かろうじてそうした活動からは距離を置いている加藤さんだが、「女房は断り切れずにつかまっちゃって」と漏らす。
ゆったりできるはずだった田舎暮らしが一転、「政治に巻き込まれた生活」になってしまったのだ。
「正直、私は学生運動さえやったことがないノンポリで、会社でも組合活動は本当に付き合い程度だったので、まさか、ゆっくり暮らそうと思っていた移住先で、こんな政治運動に巻き込まれるとは思ってもみませんでした。よくよく聞いてみると、『もともと都会では静かにしていた活動家でもない人たちが、付き合いの延長で、移住してから運動を始めるようになった』っていう話が多くてびっくりしました。」
さらには移住者による「オレが、オレが」も地元住民を困惑させてもいる。さる市役所の若手職員がこぼす。
「私は市役所で雇用促進を担当しています。雇用促進事業団といった第三セクターや任意団体の皆さんと協力しながらUターンやIターンの増加を目指しています。ところが『自分は東京の大企業の管理職にいた』とか、『外資系企業の幹部だった』という移住組の男性が、第三セクターなどに入り込み、都会での経歴を振りかざして、『雇用促進はオレに任せろ』って、地元の事情さえわからずに都会の論理と大企業の理屈を押しつけてくるのが多くてまいってしまっているんです」
東京暮らし、都会暮らしでは埋没しがちな「一般的なサラリーマン人材」が、人材密度が薄く、役所の対応からパート先の労働スキルまで総じて“ユルくてヌルい””田舎暮らしの地に来ると、「まあ、自分が超一流に思えちゃうんでしょうね」(前出・加藤さん)という。
「都市部では二流、三流とまでは言わないまでも、一流からは程遠いキャリアと実績しかない者が、人口の少ない田舎では超一流だと勘違いしちゃう例が多い。地元の習慣や状況をわかったうえで、また“温故知新”で地元のやり方を尊重したうえで、『地元の役に立とう』『こういった技術を提供できる』と汗を流すのならばともかく、『オレのやり方が、オレってすごいだろ、オレならば』ばかりが前面に出る困った隠居移住者が極めて多くて……」
結局のところ、何をしに田舎に来たのか分からない“元都会人”ばかりになってしまっているという。
「“まだまだ社会の一線で通用する自分”を、そんなに誇りたいのならば、東京でやっていればいいんでしょうにね。田舎が、そんなアグレッシブな人たちの受け皿になってしまっている。いい歳になってからプラカード闘争にビラ配りですよ。もちろん、それ自体は悪いことだとはいえませんが、彼らを見ていると、何のための田舎暮らしなのか、移住だったのか、考えさせられますね。とにかく、ゆったりとした時間など彼らからは感じません。常に、地元の政治家をこきおろしているか、次の選挙でいかに地元議員を叩き潰すか、とか、そんなことばっかり話しあってましてね。それも屋内でね。富士山や南アルプスのせっかくの風景には目も向けません」
移住者人口が急増した地域では、ついに移住者出身の市議会議員も誕生している。勢いを得た“覚醒移住者”らは、「気鋭の政治学者」を選挙に担ぎ上げ、革新活動の新たなマスコットよろしく売りに歩く。
孤独転じて群れる楽しさを覚えた移住者らは、こぞって「憲法9条を守る会」「中部横断自動車道建設反対」「自然を守る会」に参加。人生最後の闘いの地とばかりに、“政治暮らし”に明け暮れつつある。
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