骨太海外ドラマ「THIS IS US」を、日本のTVドラマを作っている人にこそ観てほしいワケ

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 高橋一生が声を担当すると聞き、つられて観始めた「THIS IS US」。2017年10月からNHKで放送が始まり、初回から心を鷲掴みにされた。なんて奥行きのある作品だろうと感嘆した。現在と過去が複雑に入り混じる構成なのに、混乱はしない。むしろ心地よい。登場人物の背景と心情に、興味がわき続ける。4月からシーズン2が放送されるので、ここいらで復習しておこうと思った次第。

 物語は、36歳になった三つ子を描く「現在」と、その両親の「過去」で構成。三つ子は、イケメンがゆえに女に流されやすく、優柔不断で男子をこじらせ気味の棒演技俳優ケヴィン(ジャスティン・ハートリー)、頭の回転もよく、歌も母譲りで超絶上手なのに、幼少期から肥満体のせいで自己評価が低く、いちいちネガティブ思考のケイト(クリッシー・メッツ)、唯一結婚していて子持ち、完璧主義のエリートだが、繊細で優しい心根が時に頑なで時に脆いランダル(スターリング・K・ブラウン)だ。

 ランダルは養子である。三つ子のうちひとりが死産となり、偶然同じ日に捨てられた赤子を、両親が受け入れた背景がある。ランダルの実父・ウィリアム(ロン・シーファス・ジョーンズ)はコカイン中毒の過去もある元ミュージシャンで、泣く泣く育児を放棄。余命幾許(いくばく)もない段階でランダルと心通わせることができたが、シーズン1で死去……って、背景や人物を説明するだけで紙幅とるから、海外ドラマって難しいわ。

 で、過去パートを担うのが両親。やんちゃな過去と親との確執などを抱えてはいるが、愛する家族のために最高のパパであり続けたジャック(マイロ・ヴェンティミリア)と、歌手の夢を諦めて三つ子の母となり奮闘するレベッカ(マンディ・ムーア)。悩み、苦しみながらも、家族で支え合う土台をきっちり築きあげた2人。三つ子はそれぞれが自分の問題を抱えているし、本音をぶちまけ合い、取っ組み合いの喧嘩もする。それでも誰かが「心の危機」を迎えたときは、寄り添い、抱きしめて、全力で支える。

 素敵すぎるジャックの父親っぷりは、全国の母たちに見せたら毒かも。もちろん、レベッカも魅力的な女性だ。育児に悩み、秘密を抱え、再び歌い始める決意をしたものの、三つ子から心の距離を置かれるという、母の悲しき役回りを背負う。

 ジャックは既に亡くなっているのだが、死の真相は明かされていない。三つ子の父への思いは強く、シーズン2で詳しく描かれるはず。つうか、シーズン1は今も放送中だし、Amazonプライムでも観られる。

 特に、日本のドラマを作っている人々に観てほしい。見た目と事務所の大きさでキャスト決定、ゆるふわ胸きゅんだけで女性票を狙い、変人を主人公に、わかりやすさと説明セリフと定番化だけを重視してたら、ドラマは確実に廃れる。人は弱くて脆くて優しくて、負の感情を心中で煮込んでいる。そんな当たり前の生臭さにフタをして、上っ面の勧善懲悪と数字に酔っていたら、テレビドラマに未来はない。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年4月4日号掲載

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