国民に「ツケ」が回る「国家予算100兆円」の大盤振る舞い

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 国会で大盤振る舞いの予算が成立した。2019年度の一般会計予算は7年連続で過去最大を更新し、101兆4571億円と、当初予算段階で初めて100兆円の大台に乗せた。10月の消費増税に伴う景気への影響を軽減するという名目で、公共事業を中心に大幅に増額しているのが特徴だ。

社会保障を隠れ蓑

 景気対策に新たに2兆280億円を使うが、単純計算で、これが無ければ100兆円を突破せずに予算を組むことも可能だった。つまり、意識的に100兆円を突破させる予算を組んだのだ。

 背景には景気回復による法人税や所得税の税収増、消費増税による税収増など、次々と生まれる新税による税収増に群がって、予算を膨らませたい永田町と霞が関の思惑がある。これではいつまでたっても財政再建などできるはずはない。

 公共事業費は6兆9099億円と、前年度当初予算の5兆9789億円から9310億円増加、率にして15.6%増という大幅な伸びになった。社会保障関係費の増大が予算肥大化の理由として掲げられるが、2019年度の社会保障関係費は34兆593億円と、前の年度の32兆9732億円に比べて3.3%増の1兆861億円増だから、社会保障以上に公共事業を増やしたことになる。社会保障を隠れ蓑に、公共事業に対して大盤振る舞いしているわけだ。

 しかし、財務省の発表資料を見ると、公共事業関係費は1.3%しか増えていないことになっている。それは通常分だけで、この他に「臨時・特別の措置」として8503億円が付けられているからだ。「臨時・特別」とは言っても2019年度だけではなく、2020年度にもさらに5000億円程度を使うことが決まっている。

 2018年12月14日に閣議決定した「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」が根拠になっており、2018年度の第2次補正予算分も含めて2兆4000億円を投下、2020年度までの3年間で7兆円を使うことになっている。まさに公共事業の大復活なのである。

 具体的に何に使うのか。河川や砂防、道路に7153億円、学校の耐震化などに1518億円、ため池、森林、漁港などに1207億円が使われるという。「防災・減災」と言われれば、誰も反対できなくなるが、本当に必要不可欠な工事なのかは、大いに疑問が残る。

 さらに、消費増税後の景気対策の意味合いもあるとされるが、実際には建設現場は猛烈な人手不足に直面しており、予算を付けても執行できないということになりかねない。また、建設・土木の企業数や労働者数も減っており、経済波及効果がかつてほど大きくないという見方も根強い。

「古い自民党」を封印

 公共事業への大盤振る舞いには、自民党の選挙対策が見え隠れする。野党が弱体なため、7月の参議院選挙は自民党が楽勝するという見方がある一方で、自民党の地方組織などでも安倍晋三首相に対する批判が強まっており、危機感を抱く自民党幹部も少なくない。参議院選挙は業界団体などの支援組織の集票効果が大きいため、建設業などへの「アメ」として公共事業費のバラマキが不可欠だったのではないか、と見られている。

 自民党からすれば、予算が実際に消化されるかどうかよりも、「2020年度までに7兆円規模」というアピールが必要だったというわけだ。

 安倍首相は第2次内閣の発足以降、繰り返し「古い自民党には戻らない」と言い続けてきた。公共事業のバラマキで選挙基盤を固めるようなスタイルは放棄するとしていたのだ。これは民主党が政権奪取の際に掲げた、「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズを多分に意識したものだった。

 だが、森友学園問題や加計学園問題、相次ぐ霞が関の不祥事などで批判が強まる中、政権維持には「旧来の自民党型」の公共事業拡大もやむなしとなったのである。安倍首相は、すっかり「古い自民党」という言葉を封印し、古い自民党の代表格だったベテラン議員を主要ポストに配置して、党内の一致団結を図っている。

デフレスパイラルの可能性

 では、そんな大盤振る舞いの100兆円予算を組んで、歳入は大丈夫なのだろうか。2019年度予算での国債など「借金」による歳入は、32兆6605億円。前の年度の当初予算33兆6922億円から減少する見込みになっている。というのも税収が62兆4950億円と、前の年度の59兆790億円から3兆4160億円増えると見込んでいるからだ。これには消費増税の半年分も含まれ、消費税収は2018年度の17兆5580億円から19兆3920億円に1兆8340億円増を見込む。つまり、消費増税以外にも景気の回復で所得税や法人税が増えると見ているわけだ。

 確かに、景気が好転して、企業収益が改善し法人税が増加、給与も増えて所得税も増加するとなれば、安倍首相が言い続けてきた「経済好循環」が動き出す。だが、消費増税で消費が落ち込めば、消費税収が伸びないだけでなく、企業収益が落ち込み、給与が増えないために、法人税収も所得税も思ったように増えないということになりかねない。再び、デフレスパイラルに陥ってしまう可能性もあるのだ。

 だからこそ、景気を冷やさないための大盤振る舞いが必要だという論理になるわけだが、本来は、景気が悪化しそうな局面で、消費増税を行うこと自体に無理があると見るべきだろう。

 もっとも、政府が予算規模をどんどん膨らませていけば、財政赤字は全く減らない。国際発行残高など「国の借金」は、すでに1100兆円を突破している。では、政府はどうやってこの難局を打開しようとしているのか。

 実は、国民があまり関心を払わないうちに、どんどんと増税が進んでいる。消費税率の引き上げに目を取られがちだが、新税が各所で導入され始めているのだ。

先に「アメ」を配る

 今年1月から「国際観光旅客税」が導入された。出国する際に1人1000円を徴収するというもので、航空券や船舶の切符を発券する際に加算される。日本にやってくる訪日外国人は2018年の1年間で3119万人と過去最多を更新したが、課税対象はこうした外国人ばかりではない。日本から出国した日本人も2018年は1895万人と過去最多を記録した。つまり単純計算でも500億円が徴収できる。この税金、観光振興に使うという「目的税」だが、要は国土交通省、観光庁の第2のポケットマネーになるわけだ。

 こうした目的税は金額が小さいことや、納税感が乏しいこともあり、国民の抵抗感がなく導入される傾向がある。「森林環境税」も2024年度から導入されることが決まっている。こちらも国内に居住する個人から1人あたり1000円を徴収する。国税として集めたものを、「森林環境譲与税」として、市町村や都道府県に分配する。使途は「間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用に充てなければならない」とされている。

 課税されるのは2024年度からだが、実は地方自治体への「森林環境譲与税」の分配は2019年度から始まる。2021年度までは年間200億円、22年度と23年度は年間300億円を分配することが決まっている。この分は「借金」としておき、森林環境税が導入された段階でその税収から返済していくのだという。先に「アメ」を配ってしまうので、新税導入は撤回できない仕組みだ。

 課税対象範囲がどれぐらいになるかわからないが、人口1億人に課税されれば1000億円だ。

 これも本来ならば、地方交付税交付金の中で対応できるはずだが、「目的税」とすることで、抵抗なく財源が確保されている。もちろん、これまで税収を持たなかった環境省のポケットマネーという意味合いもある。

二重課税の類

 国に右へ倣えとばかり、地方でも「観光税」の導入や「入湯税」の引き上げなどが相次ぎそうだ。

 別府市は4月1日から入湯税を引き上げた。宿泊料金や飲食料金が6001円以上5万円以下の場合、1人1泊150円だったものを250円に、5万1円以上を150円から500円に引き上げる。

 金沢市はやはり4月から「宿泊税」を導入。1人1泊の宿泊料金が2万円未満の場合は200円、2万円以上は500円の課税を始めた。

 同様の税金は北海道倶知安町や奈良市、城崎温泉がある兵庫県豊岡市などですでに徴収、検討されている。

 こうした税金は域外からの観光客などに課税され、住民には直接影響がないため、反対もなく導入される傾向が強い。国からすれば、地方自治体の自主財源が増えれば、いずれ地方交付税交付金を減らしていくことができるわけで、長期的には国の財政にプラスになる。

 もっとも、こうした目的税は、消費税導入を決める際に、なるべく廃止をして消費税に一本化していくという話だった。消費者からすれば、消費税を支払ったうえに、宿泊税も取られることになるからだ。消費税には地方自治体の「取り分」も含まれているから、二重課税の類である。

 予算編成のニュースは数字がいっぱい並ぶこともあり、納税者である国民はなかなか関心を持たない。だが、大盤振る舞いのツケは様々な形で、国民に回ってくる。

磯山友幸
1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。

Foresight 2019年4月1日掲載

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