出版界で注目の美女、文学YouTuberベル 「この世界で生き残るにはニッチじゃないとだめ」
今子どものなりたい職業ランキングでも上位に食い込む程に市民権を得たYouTuber。だが、彼女はあなたがイメージするYouTuberとは少し毛色が違うかもしれない。
文学YouTuberベル。その名の通り彼女は「文学」に特化したYouTuberとして活動をしている。特に力をいれているのが「書評」動画だ。一冊の本のあらすじ、読みどころ、感想などを彼女独特の視点で追った動画で、読書家界隈から一目置かれている。
静的な文学と動的なYouTubeという、一見食い合わせが悪く見える2つの「媒体」を結びつける彼女の魅力に迫った。
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「もともとYouTuberになろうと思っていたわけではないんです」
そう語るベルさんが、YouTubeチャンネルを開設したのは2015年。週2、3本ペースでアップする動画は全て自身で企画、撮影、編集を行っているが、中でもとりわけ力を入れているのが「書評」動画だ。本を読んでいて気になるフレーズが出てきたら付箋を貼り、どうやって紹介するか考えながら熟読。その後5~10分の尺に合わせた台本を書き、1時間程度で撮影、6、7時間かけて編集作業をする。
「本当はもっとたくさん配信したいんですけど、時間がかかるんです(笑)」
2019年現在、「文学YouTuberベル」は登録者数6万人に迫る人気チャンネルに成長しているが、開設当時は家族や友達にも知らせず、こっそり興味本位で配信していただけだったという。そんなベルさんに転機が訪れたのは2017年のことだった。
「YouTube NextUpというクリエイター支援の強化合宿があるんですが、それに応募したら12人の入賞者に選ばれたんです。5日間ワークショップをみっちりやったんですが、それまで独学でやっていた動画編集をプロの人からちゃんと教えてもらったり、一緒に参加したYouTuberの方たちも熱くてキラキラしていたり、すごく有意義な時間でした。動画編集の自信もついて、おこがましいかもしれないけど、私もYouTuberになれるかもしれない、この世界一本でやっていきたいって決意をしたんです」
しかし、YouTuberを本業にしたいと思ったところで、今や市場は飽和状態。無作為にいろんなことをやっていても固定客は増やせない。
「昔は登録者数も増やしたい、再生回数も増やしたいと思って、数字にもこだわっていました。だから、流行のゲームをやってみたり、時事ネタを動画にしたこともあった。でも、その手の動画って再生回数は伸びるんですけど、自分としては物足りなさが残るんですよね。満足感が得られないというか…。せっかくYouTuberになるのに『ベルって一体何してる人?』ってなっちゃったら意味が無い。だから一番自分がやりたいことを動画にしていこうって決めたんです」
それが今となっては彼女の名刺代わりとなっている「書評」動画だった。
「昔から本が好きでした。特にミステリーとか青春物とか、乙一さんとか。なので、2017年以前から書評動画は配信していたのですが、実は全然人気が無くて(笑)。自分自身はすごく本が好きなので、楽しんで作っていたんですけど、全然再生回数が伸びない。やっぱりYouTubeの世界において、書評ってニッチなんですよね。
でも、書評動画を作るときは、いつの間にか凝っている自分がいたんです(笑)。満足感がすごく高かった。再生回数は少ないけれど、『この本を学生時代に知りたかった』とコメントを頂いたりしたこともあって、人気は無いけれどちゃんと作れば需要はあると思えました。だから、YouTuber一本でやろうと決めたときに、やりたいと思ったのは『書評動画』だった」
それでも、再生回数が少ない動画をメインに活動するのは非常に勇気がいったはずだ。しかし、彼女には勝算もあった。
「逆に今YouTubeの世界で生き残るには、ニッチじゃないとだめだと思うんです。チャンネルは溢れていますから。再生回数や登録者数以上に、他との差異が大事。ニッチだからこそ、チャンネルとの親和性が高ければ、大きな企画も舞い込んで来るんです」
その言葉通り、最近ではYouTuberというオンラインだけでなく、オフラインにも活躍の場を広げている。
「ベル書店や、文芸誌での書評、そして初めての推薦帯。本当にたくさんのことをやらせていただくようになりました。オフラインのお仕事は、本当に読者の方との距離が近くて、ぬくもりというか、手元に残っていく感じがあるので嬉しいですね。
初めての帯…これが書店に並ぶのかと思うと感動ですよね。帯の文言は、動画と違って、限られた文字数がある。そこでどれだけのことを伝え、この作品に引き込めるかが難しかった。ホワイトボードにこの作品を構成する要素をたくさん書いて、ブレストして……ちょっとYouTubeのタイトル付けとも似ていたように思いますが、すごく楽しい作業でした」
そのブレストを経てできた帯がこれだ。
「『獣に道は選べない』は、人外、歌舞伎町という設定やキーワードも気になるし、友情、絆、若者の漠然とした迷いのような箇所もあり、本当に内容が盛りだくさん。実はドタバタ劇はそんなに好きじゃないんですけど、さすが額賀澪さんですよね。文章もキレイで、メッセージがある。きっと人生に迷っている若者や、やりたいことが分からない人、好きなことで生きていけと言われることがプレッシャーな人、そういう人たちに共感を持ってもらえると思う」
有名になってくると「この本を紹介してください」という依頼も増える。しかし彼女には信念があるという。
「私には合わないと思ったら断っちゃうこともありますね(笑)。あるいは『言いたいこと言うけどいいですか?』と念押ししたり(笑)。私はあくまで一読者で、出版社や編集者ではない。読者目線で本を語っていきたいので、やっぱり思ってもいないことは言えないんですよね。それが視聴者への信頼感にも繋がると思います。
物語という“見えないもの”をレビューするのは難しいです。しかも『書評』ってある種の思想じゃないですか。それでも、恐れずに言うべきことは言うというのが信念ですね」
思想とまでは言えなくても、読書家なら本の感想を誰かに伝えたい、そんな気持ちを一度や二度は抱いたことがあるはずだ。ベルさんはそういう人たちが感想を言い合えるような「#のベルズ」という視聴者コミュニティも形成している。
「本の感想はもちろん、この本読み切れなかったんだよね、みたいな体験を共有し、読書を通じたコミュニケーションの場を広げていきたい」
さらに、読書の啓蒙活動もしたいという。
「『奥付解説』とか『私小説ってなに』とか『ミステリーとサスペンスの違いは?』とか、本にまつわるトリビア動画も作っていますが、普段読書をしない人たちにも『本って面白いよ』『この本を読んだらこんな世界が広がっているよ』という“疑似体験”を届けたいんです」
本にまつわるあらゆることを模索し続けるベルさん。今後やりたいことを聞くと、「一冊の本をテーマに作詞してMVにしたいな~と思っています!」と明かしてくれた。今までになかった読書体験を届け続けるベルさんの活躍からますます目が離せない。