相棒、トレース、メゾポリ…視聴率だけではわからない「刑事ドラマ」本当の評価を分析
ドラマの満足度
「メゾン・ド・ポリス」の課題は、エイト社「テレビ視聴しつ」の視聴満足度調査でも裏付けられる。ドラマ序盤の1月と、中盤から後半に入った2月に、実際にドラマを視聴した人々に、5段階評価で満足度を聞いたものである。一般的には連続ドラマでは、中後半に進むほど満足度は高まる傾向にある。満足度を低く付けた人は見なくなるからで、『相棒』などの他4本が上昇している通りだ(図3)。
ところが「メゾン・ド・ポリス」だけ、わずかだが評価が低くなってしまった。当初は退職刑事のシェアハウスという設定や、新人の女性刑事がおっさんたちと協力して事件を解決する展開など、新しい切り口を評価する声も少なくなかった。ところが回を追うごとに、否定的な意見が増えてしまったのだ。
「毎週見たいと思うほどではない」女19歳・満足度3
「高畑さんが出ているので見ているが、あまり中身のないドラマ」男66歳・満足度3
「少し飽きてきた」女61歳・満足度2
「主役の過去に絡ませるいつものパターン」女67歳・満足度3
「気楽に見れるが物足りない」男47歳・満足度2
刑事モノがたくさん放送されているためか、他の刑事モノと比較する目の肥えた視聴者が少なくない。
また「トレース」も、序盤も中盤も満足度が低いままだった。「科捜研の女」に似せた設定や2時間ドラマにありがちな要素に対して、厳しい意見が目立った。
「船越の昼ドラ芝居が悪い意味で耳に残ってしまう」女30歳・満足度2
「古い」男31歳・満足度3
「ドラマ特有のとんでも展開が無理やりすぎて微妙」女23歳・満足度3
「アンナチュラルのフォロワー感が否めない」男19歳・満足度4
「ストーリーに斬新さがない」女21歳・満足度3
以上のように世帯視聴率2桁、若年層も多い、しかもハマる視聴者が回を追うごとに増えていたにもかかわらず、「トレース」には厳しい声が多数寄せられ、満足度も低いままとなった。
やはり刑事ドラマは、多くの作品がしのぎを削るレッドオーシャンのようだ。確かに刑事ドラマは、殺人など非日常という刺激、犯人は誰かという謎解き、どう犯人を追い詰めるかという知的好奇心、犯人がなぜ犯行に至ったのかという下司な勘ぐりなどの要素があり、視聴率を稼ぎやすい。ただし見たことのあるような設定・ストーリー展開など、過去の刑事ドラマと似たものになりやすく、新鮮さや感動に欠けがちだ。
逆に刑事ドラマで大ヒットした作品を振り返ると、レッドオーシャンで傑出するための共通点が見えてくる。
1997年に第1シリーズが放送され、その後スペシャルや映画などが何本も製作された「踊る大捜査線」が典型例だろう。アンチ「太陽にほえろ!」の発想で、刑事をニックネームで呼ばない、聞き込みシーンで音楽を流さない、犯人に感情移入しないなどの禁じ手を設けて作られたという。結果的に警察といえどもサラリーマン組織という新しさで、多くの視聴者を虜にした。
最近では、去年冬クールの「アンナチュラル」がある。「日本における不自然死の8割以上は、解剖されずに適当な死因を付けられている」という実態からスタートする切り口は斬新だった。しかも死体解剖の直後に、石原さとみと市川実日子が冗談を言い合う女子トークが展開されるという意外性もあった。
「アンナチュラル」の満足度調査では、高い評価を付けた人の意見に「今までにない」「意外な展開」などが目立った。「踊る大捜査線」と同じように、新たな地平を切り拓いた努力に視聴者は高い評価を与えたようだ。
過去の類似作に「より掘り下げた」「付加価値を付けた」「人気俳優を起用した」程度では、仮に視聴率をそこそこ獲り、若年層を取り込めたとしても、大化けとはいかないようだ。
これまでに類似作が多いだけに、「今までにない」「意外な展開」を捻出するのは容易でないだろう。それでも、その難問をクリアした作品だけが、バランス良く視聴者からの評価を得る。
レッドオーシャンから、ぶっちぎりの話題作が登場するのを期待したい。
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