認知症1千万人時代、効果期待の“アルツハイマー予防薬”は何歳から投与?

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予防薬ゆえのハードル

 確かに、ここまでの実験では劇的な効果が得られたと言えるでしょう。

 しかも、リファンピシンは結核やハンセン病の患者に対して半世紀近く前から使われている既存薬です。安全性についてはすでに立証されている。一日も早くこの薬を使えるよう望まれる方々も少なくないと思います。ただ、予防薬として実用化するためには、まだハードルが残されているのも事実です。

 というのも、リファンピシン自体は承認された薬ですが、アルツハイマー病の予防は適応外の用途なので、改めて臨床試験を受ける必要があるのです。そこで昨年8月、私たちは「メディラボRFP」というベンチャー企業を立ち上げました。資金を集めて研究を進め、2年後には臨床試験に入りたいと考えています。

 その前にクリアしなければならないハードルのひとつが副作用です。

 リファンピシンを経口投与した場合、まれに肝障害の症状が現れる。また、リファンピシンが肝臓の細胞に働きかけて、他の薬の成分を壊すこともあります。

 ただ、こうした副作用は、飲み薬ではなく「経鼻投与」に切り替えれば避けられるでしょう。実は、鼻腔内には嗅覚を司る脳の神経の一部が露出しているのです。そこにシュッシュと噴霧して取り込めば薬は肝臓を回避し、脳にも回りやすくなります。

 もうひとつのハードルは、日本ではまだ予防薬への評価が定まっていないことです。仮に予防薬として承認されたとして、アルツハイマー病が心配な読者の方々が気になるのは、いつ頃、この薬を使い始めれば予防効果があるのかでしょう。いま考えられる処方までのプロセスは以下の通りです。

 まず血液検査でMCI(軽度認知障害)や、プレクリニカル期(まだ症状が出ていない時期)の方を早期発見し、PET検査で老人斑の有無を調べ(※メカニズムについては前回参照)、将来的にアルツハイマー病を発症する可能性が高い方々に投与することになります。老人斑が現れ始めた40~50代の方々はもちろん、まだ発症していない高齢者の方々にも効果が得られると考えています。

 確かに、投与が10~20年という長期間に亘れば医療費が問題視されかねません。とはいえ、高齢化によってアルツハイマー病の患者が増え続けているのは事実です。しかも、一旦発症すれば医療費や介護費だけでなく、患者や家族が働けなくなることで莫大な経済損失が生じてしまう。

 未だ有効な治療法が見つかっていない以上、医療経済全体を考えても予防こそがベストだと言えます。

 まずは、アルツハイマー病対策として「予防」という選択肢があることを多くの方々に知って頂きたいと願っています。

富山貴美(とみやま・たかみ)
大阪市立大学研究教授。理学博士。1984年東京工業大学理学部化学科卒業。大阪市立大学大学院医学研究科准教授を経て、2018年から同大学院の認知症病態学研究教授。

週刊新潮 2019年2月28日号掲載

特集「認知症1千万人時代に朗報! 『アルツハイマー』予防に劇的効果の既存薬」より

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