再審確定の湖東病院事件 取調べ捜査官への恋慕が招いた獄中生活12年の悲劇
供述変遷の裏に刑事の誘導
一般的には、明らかな殺人事件が起き、逮捕された容疑者が刑事に問い詰められ、「犯行」を自供する。だが西山さんは、警察が殺人事件とも考えていなかった逮捕前の任意取り調べの段階で、「殺した」と言ってしまったのだ。井戸謙一弁護士は「それだけに虚偽自白の証明は困難でしたが、不自然な西山さんの供述変遷に刑事の誘導を確信した」と話す。
自白の変遷の一端を見てみよう。
【7月2日】A看護師が寝ていた。忙しいのにと腹立った。病院の待遇は悪い。咄嗟に思いついてチューブを外した。アラームが10分鳴り続けた。A看護師が入ってきてつないで消した。
【5日】チューブを外して部屋出た。鳴り続けていたので自分がつないで戻った。
【10日】アラームは鳴っていない。消音ボタンを押し続けていた。
【11日】消音ボタンは1分経つ前にもう1回押せば鳴らない。1秒2秒と頭の中で数えて1分前に再び押した。(殺人は)1週間前から計画していた。
当初「鳴った」とされたアラーム音は、その後の捜査で誰も聞いていなかった。捜査陣は、アラーム音が「鳴っていた」だと立件ができないと判断、後にわかった「音を消し続ける仕組み」を西山さんに教え、自白と合うように供述させた。ただし、看護助手だった西山さんに呼吸器操作の資格はなく、止める仕組みも知らなかった。
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