再審確定の湖東病院事件 取調べ捜査官への恋慕が招いた獄中生活12年の悲劇
取材・文/粟野仁雄(ジャーナリスト)
「出たで」。3月19日、滋賀県彦根市のリサイクル工場で仕事中だった西山美香さん(39)に母・令子さん(68)から涙声の電話があった。待ち望んだ再審開始決定書が、最高裁から届いていた。早退して家に走り、その日、大津市内で弁護団と喜びの会見をした西山さんは、「再審は弁護団や支援者のおかげです。無罪判決がもらえるように頑張りたい」「何度も諦めかけ無罪になったらマイカーを買って両親をいろんなところに連れて行きたい」などと話し、時折、眼鏡をはずして涙をぬぐった。一昨年8月に12年の服役を終えてから1年半。
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主任弁護士の井戸謙一氏は「ようやくあるべき結論が出た。ホッとしました」と笑顔を見せた。決定書は、同弁護士が「ほぼ完璧と言ってよい」と高く評価していた大阪高裁の再審開始決定を、ほぼ踏襲していた。
冤罪事件を概略する。
2003年5月22日、滋賀県の湖東記念病院で男性患者(当時72)が死亡した。人工呼吸器のチューブが外れたことを報じるアラーム音に職員が気づかず、窒息死したとみた滋賀県警は、過失致死事件として西山さんを含む2人の看護士を任意聴取していた。ところが西山さんは、事件から1年以上が経過した翌年7月6日になって「呼吸器のチューブを外した」と殺害を自白し、逮捕された。当時24歳だった。動機は職場での待遇への不満で、「誰でもよかった」と供述したのだ。
しかし西山さんは、第2回公判から無実を主張した。主張は通らず、大津地裁は懲役12年の実刑判決を下し、07年に最高裁で刑が確定した。獄中からの第一次再審請求は10年9月に最高裁で棄却されたが、第二次再審請求は17年12月に大阪高裁が「警察官などから誘導があり、迎合して供述した可能性がある」と再審開始を決定。そして今回、最高裁も検察側の特別抗告を棄却し、再審開始が確定した。西山さんは「刑事さんのことを好きになって、気に入ってもらおうと思って、どんどん嘘を言ってしまった。こんなことになるとは思わなかった」と話していた。
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