テレ東流・夜の女のお仕事ドラマ「フルーツ宅配便」に見る“働く覚悟”
デリヘル。どんなサービスをするのか、いったいどんな秘技や裏技があるのか、そこで働く女性は危険な目に遭わないのか、問題のある客から女性を守るための対策を徹底しているのか。疑問がつきないからこそドラマにしてほしいと思っていたし、テレ東にしか作れないだろうなと思っていた。案の定、良質な作品が誕生。「フルーツ宅配便」である。
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主演は濱田岳。ひょんな出会いからデリヘル店で働くことに。オーナーは胡乱(うろん)で怪しげの権化・松尾スズキだ。裏社会に通じているが、働く女性たちの人権を常に守る、まっとうな部類の人間。送迎運転手として働くのは荒川良々(よしよし)。落語でいう与太郎的人物をここまで体現できる俳優を私は他に知らない。平熱が高く、やたら食べて寝る。買い物ひとつ満足にできない、まさに与太郎なのだが、女性たちの用心棒としても暗躍。
もうひとり、スタッフとして働くのが原扶貴子(ふきこ)。時には子供を預かり、デリヘル嬢たちを細やかに気遣う。絶大なる安心感。あら、いい店だわぁ、と思っちゃう。
毎回、果物名前のデリヘル嬢たちの生きざまが描かれるのだが、不幸話や恨み節だけではない。そこにつけこみ、優越感に浸って欲情するのは下劣な客だけだ。
時間をうまく使い、手っ取り早く稼いで生活を守る堅実なシングルマザー(徳永えり)もいれば、バンドマンを支える女(山下リオ)もいる。伝説のデリヘル嬢(兼掃除婦の山口美也子)も在籍。客から酷い言葉を浴びせられようが、犯罪紛いの暴行を受けようが、ストーカーされようが、日々出勤。プロ意識をもつデリヘル嬢たちが矜持を見せてくれる。デリヘル嬢の素質がないコミュ障娘(北原里英)は客と恋に落ちて、田舎で結婚という夢物語もサービス。要するに、日テレが好きそうな「女のお仕事ドラマ」としても成立しているのだ。
もちろん、闇もある。家も借りられず、子供を保育園にも預けられず、路頭に迷った女たちが集まってくるのもデリヘルという現実。借金地獄に苦しむ女たちが、つい店の掟を破ってしまうエピソードもてんこもりだ。そこをうまい女優で固めて、ぐっと惹きつけた。指名欲しさに本番をやったり(内山理名)、店を通さずに客と直接交渉したり(内田慈(ちか))、覚醒剤に手を出したり(中村ゆり)。弱くて脆い女たち。世知辛いし、やるせないのだが、この厳しい現実が、濱田の成長を促していく。
初めは、女性たちの不憫な境遇に同情し、金を貸そうとした濱田。松尾は「俺たちに人は救えない。二度とそんなこと考えるな」と叱る。中途半端な優しさは却(かえ)って仇となる。不幸や不憫に同情は不要。必要なのは、安心して働ける職場と、安定した仕事っぷりなのだ。
濱田は徐々にデリヘル業界の実態と世知辛い現実に触れていく。美人で憧れの対象だった同級生・仲里依紗が、実は凄絶な過去を背負い、ブラックデリヘルで搾取されていることも知る。濱田がデリヘル嬢から学ぶのは、たぶん「働く覚悟」だ。職業に貴賎なし、どんな仕事であれ、プライドをもって真面目に働くことなのよ。