「アルツハイマー予防」に既存薬が劇的効果 大阪市立大教授が発見、メカニズムを解説

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認知機能が改善

 オリゴマーとはタンパク質などが二つ、三つと寄り集まった小さな集合体。問題となったのはアミロイドβのオリゴマーでした。オリゴマーは小さすぎて目では確認できません。しかも、水に溶ける性質があるので脳内を動き回り、様々な部分に分散している。そのせいで最近まで存在を掴めていませんでした。

 アミロイドβのオリゴマーが増えると、タウも同じように凝集してオリゴマーを作り始めます。

 こうして誕生したアミロイドβとタウのオリゴマーこそが、脳の神経細胞を殺し、最終的にアルツハイマー病を引き起こす原因でした(図2を参照)。

 これが最新の研究で解明された発症メカニズムです。ただ、そうすると老人斑とは一体何だったのかという疑問が生じますよね。

 実は、画像診断技術の進歩によって、老人斑は高齢者だけでなく、40~50代の中年期からすでに現れていることが分かってきました。

 この点から次のような解釈が導き出せます。

 まず、オリゴマーはアルツハイマー病が発症するかなり以前から悪さを始めているようだ。しかし、患者が若い頃は代謝が活発なのでオリゴマーは分解されてしまう。中年に差し掛かると代謝は衰えるけれど、今度は脳が自らを守るために有害な物質を牢屋に閉じ込めるようになる。つまり、老人斑という形でオリゴマーを1カ所に隔離し、無力化してきた。

 さらに年齢を重ね、ついにオリゴマーを処理できなくなると、沢山の神経細胞が死滅し、最後には認知機能が落ちていく。

 現在ではこのような考え方が定着しつつあります。

 長い年月をかけて脳の神経細胞を失い続けた末に、とうとう症状が現れ、アルツハイマー病と診断される。ただし、死んでしまった神経細胞は決して元には戻りません。そのため、アルツハイマー病と診断されてからアミロイドβを除去する治療薬を投与したところで効果は薄い。だからこそ、発症前に「予防」することが重要になるわけです。

 そして、私が予防薬として可能性を見出しているのが、冒頭で触れた「リファンピシン」という薬です。

(2)へつづく

富山貴美(とみやま・たかみ)
大阪市立大学研究教授。理学博士。1984年東京工業大学理学部化学科卒業。大阪市立大学大学院医学研究科准教授を経て、2018年から同大学院の認知症病態学研究教授。

週刊新潮 2019年2月28日号掲載

特集「認知症1千万人時代に朗報! 『アルツハイマー』予防に劇的効果の既存薬」より

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