「内田裕也さん」死去 週刊新潮に寄せた“怒りの原稿”とはウラハラな義理堅き男

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たった一度会っただけ

――当時の担当編集者が語る。
 
 冒頭から「POWER TO THE PEOPLE!」だったり、「!」は多いし、アルファベットもあれば漢字とカタカナが変に混じっていたり……。人名は呼び捨てもあれば、サン付け、君付け、氏だったり、あまりに独特の文章なので、誤植と思われるんじゃないかと心配しました。説明が足らず、つけ加えたい部分もありますが、でも、読み返してみると、裕也さんの怒りも伝わってくるし、笑える部分もちゃんと入っている。裕也さんの文章には妙な味があるんです。

「週刊新潮」(08年10月30日号)は秋の特大号として、各界の著名人に、今、頭にきていることを書いてもらおうという企画が組まれていました。「[ワイド特集]世の中 間違っとるよ」というタイトルで、精神科医の香山リカさんは「優雅な患者『うつ病セレブ』の脅威」、ジャーナリストの乙骨正生さんは「不況メディアを『広告支配』する創価学会」、ノンフィクションライターの河合香織さんは「国産ワインの原料は『8割が外国産』」……といった内容。13人の論客の1人に裕也さんに入ってもらいました。

 裕也さんに書いていただこうと思ったのは、怒りがテーマなら、彼が適任だと考えたからです。その直前に彼と知り合う機会がありましたしね。

 前月の9月末、「ダイアナ」などのヒット曲で知られるポール・アンカが来日。知り合いからミニコンサートに招待されて、見に行ったんです。コンサート後にレセプションが開かれたので顔を出すと、“ロカビリー三人男”の平尾昌晃さん、山下敬二郎さん、そしてミッキー・カーチスさんが、ポール・アンカを囲んでいました。

 会場を見回すと、端っこのほうにいたんですよ、黒のスーツ姿でステッキ持った裕也さんが。「なんでロックン・ローラーがロカビリーのレセプションにいるのか?」と思いましたが、後々知ったのは、裕也さんはそもそもロカビリーだったんですね。挨拶をさせていただき、様子を窺っていると、そのうちポール・アンカが近づいてきた。英語で話しているのを眺めていると、突然、裕也さんが私に向かって声を上げたんです。

「おーい、カメラ持ってるよな。撮ってくれよ」

 それが裕也さんとポール・アンカの2ショット写真です。撮り終えると裕也さんは、

「送ってくれよな」

 たったそれだけです。後日、写真を紙焼きにしてお送りしましたが、その後に雑誌の企画が持ち上がったものですから、まだ記憶も生々しい裕也さんにお願いできないかと考えたんです。

 マネージャーさんを通して企画意図を説明すると、「頭にきていることならある」とあっさり受けてくれました。そして、その翌日には、直筆の原稿がFAXで送られてきました。しかし、これが掲載された原稿よりもはるかに乱暴な書きっぷりで、しかもやけに長い。打ち合わせで依頼した文量の3倍はありました。それよりも、何に怒っているのかもわからないような文章でした。これは載せられないと思い、当時の編集長に相談すると、「別の人を立てよう」とまで言い出した。

 それでマネージャーさんに言ったわけです。「申し訳ないけれど、この原稿では掲載できない。書き直してもらえませんか?」と。

 マネージャーさんは「それは無理だと思う。内田は書き直しなんてしませんよ」と。確かに、そんなイメージはないけれど、検討してもらえないかお願いしました。

 すると翌日、早速、手書きの原稿がFAXで送られてきたんです。しかし今度は、やけに短い。予定の半分程度しかないわけです。

 再度、電話すると「もう無理ですよ」とマネージャーさんが言う。「二度も書き直しなんてするわけがないじゃないですか」と。でも新原稿の内容は、掲載した原稿に近いもので、言わんとすることもわかるものでした。これを掲載しないのは、もったいないわけです。

「一応、話はしてみる」とのことで、電話は切られました。

 そして翌日、掲載された原稿が送られてきたんです。文量もピッタリでした。

 お礼の連絡をすると、マネージャーさんがこう言いました。

「二度も書き直させたなんて初めてですよ。内田がね、『写真、撮ってもらったしな』って言ってましたよ」

 律義というか、義理堅いというか、意外に感じましたが、嬉しかったですね。でも、妙なカタカナ表記を直すことや、敬称の統一などを提案したのですが、「これが内田の文章ですから」と認めてはくれませんでした。

 改めて読み返してみると、「週刊新潮」にはそぐわない表記であり、文章かもしれませんが、面白いんですよね。

 以後も、何かひと言だけでも裕也さんのコメントが欲しいというときに、いつも答えてもらいました。こちらが甘えるばかりだったんです。たった一度、たまたま会っただけ。写真1枚撮ってあげただけなのに……。
 
 暴れん坊であり、律義で繊細でもある。渾沌としたところが裕也さんの魅力だったのかもしれません。本当に、ありがとうございました。

週刊新潮 2008年10月30日号初出/2019年3月19日掲載

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