『華麗なる一族』のモデル・山陽特殊鋼が新日鉄住金の子会社に

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 映画やドラマにもなった山崎豊子の『華麗なる一族』(新潮社刊)の万俵鉄平は、万俵コンツェルンの御曹司である。傘下の「阪神特殊鋼」の専務として同社を業界トップクラスに育てようと奔走するが、欲深い父・万俵大介の裏切りによって会社は倒産、鉄平は失意のうちに自殺を遂げる。

 この小説は山陽特殊製鋼(以下、山陽特殊鋼と略)の戦後最大と言われた破綻劇がモデルだが、同社が新日鉄住金の子会社になると正式に決まったのは、2月28日のこと。それまで、約15%を出資していた新日鉄住金が、第三者割当増資を引き受け、約52%の株を握ることになる。

 振り返れば、同社ほど企業の浮き沈みを見せつけた鉄鋼メーカーも珍しい。もともとは、終戦後、元特高警察の荻野一が乗っ取り同然に経営権を手中に収めると、次いで富士製鉄(新日鉄住金)との太いパイプを築く。さらに資本金の3倍を超える最新設備を導入し、急な膨張策に走る。一躍、関西財界のスターになった荻野は万俵大介のモデルとされ、豪奢な私生活が話題になった。

 同社を取材した鉄鋼業界紙の古参記者が言う。

「その一方で、放漫経営と過大な設備投資は、山陽特殊鋼の首を絞めることになるのです。負債500億円を抱えて破綻したのは1965年のこと。巨額の粉飾決算や横領・裏金も露見して一大スキャンダルに発展しましたが、同社の破綻は銀行業界も巻き込んだ。巨額の融資をしていた神戸銀行も屋台骨を揺さぶられ、やがて太陽神戸銀行(後の三井住友銀行)へと再編されたのです」

 小説では、ここで万俵鉄平が死んでしまうのだが、そのモデル(元専務)も実在した。物語と違うのは、破綻後も債権者から請われて同社に残ったことだ。まわりからも「鉄平さん」と呼ばれ、同社の再建と再浮上までを見届けた。

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