欧米では一般的なアフターピル、“コンドーム大国”の日本では普及しない特別な理由

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「生殖以外で性行為をするべきではない」という価値観

 アフターピルの市販化に向けた問題は、厚労省の検討会でも2017年に議論されたが、全会一致で否決され、その後も市販化の目処は立っていない。厚労省では2019年1月から、一部の医療機関が行っているアフターピルのオンライン処方の是非についての検討会を始めているが、仮にこれが認められたとしても、前述の通り内服のタイムリミットがある薬なだけに利便性の向上は限定的だ。

「WHOからアフターピルは必要とする全ての女性がアクセスできるようにすべきだと勧告を出していますが、2017年に厚労省で行われた検討会では、『(アフターピルの)安易な使用が広がる恐れがある』ということが懸念されていました。その根底には、生殖の目的以外で性行為することを是としない考えがあるのではと思います。私たちは普段、学校で性教育の講座を開いているのですが、学校側からは『性行為を奨励するような表現はやめてほしい』と言われたこともあります。また、『使用者や薬剤師のリテラシーが不十分』ということも市販化見送りの理由で挙げられていましたが、今やネットを通じて小学生から性情報に触れている時代。現実として多くの若者はすでに生殖を目的としない性行為をしているわけですし、そのリスクや対策の情報をきちんと得られる環境づくりが大切ではないでしょうか。」

 事実、海外ではまったく異なったアプローチで性教育が施されているといい、ともすればそれがアフターピル導入の“差”となって表れているのかもしれない。

「私たちは、海外の性教育の動画を翻訳するプロジェクトも進めています。その中には『あなたは大切な人とセックスをすることになりました。おめでとうございます』『セックスは心も体も満たされ心地よいと感じるものだし、そうあるべきものです』といったナレーションから始まる映像があります。私自身は共感しますが、日本ではそれをすんなりと受け入れない人もいるという気もします」

 さらには、アフターピルの市販化が認められない理由のひとつには、医療業界の構造上の課題も……。

「妊娠をして、中絶する場合は病院によって費用にバラつきはありますが、妊娠11週目までの処置であれば、8万円~25万円ほどの金額を提示している病院が多く、全身麻酔を使いますが手術時間自体は数分で済むもの。また、出産をするとなっても、その費用は病院にわたります。それに比べれば、薬代のコストがかかるアフターピルやピルの診療は患者への説明の時間がかかる上、病院の利益額は小さくなります。アフターピルがドラッグストアで市販されるようになると、病院の利益が減るという見方をする人がいてもおかしくないですよね。それは医療業界の構造上の問題だと思います」

 あらぬ偏見に利権話まで飛び出すこの問題、まだまだ市販化へのハードルは高いようだ。

取材・文/星野陽平(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年3月14日掲載

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