欧米では一般的なアフターピル、“コンドーム大国”の日本では普及しない特別な理由
ピルへの偏見
日本でアフターピルが普及しない原因の一つとして、染矢氏は“入手経路の問題”を挙げる。
「日本でピルを入手するには、産婦人科や婦人科の処方が必要で、このハードルが高いのだと思います。アフターピルの場合、性交後72時間以内に飲まなければなりませんが、そのタイミングで病院が開いているとは限りませんし、仕事を休めず診察を受けられない場合もあるでしょう。そもそも、人目が気になってしまうという声もあります。また、アフターピルの価格は医療機関によっても異なりますが、1.5万円ほどが相場のようです。価格は分かりませんが、ジェネリック薬も2019年3月に発売予定です。一方、海外では、ドラッグストアで市販されていたり、イギリスやカナダ、スウェーデンなどでは無料で入手することもできます」
また、日本では女性がピルを飲むことに対して、男性からの根強い偏見もある。
「ピルは避妊目的だけでなく、生理トラブルの治療のために保険適用で処方されることもあるのですが、日本で女性がピルを飲んでいると言うと、男性から“貞操観念が低い”なんて短絡的なイメージを持たれがちです。これは適切な性教育が行われていないせいもあると思いますが。また、ネットにはアフターピルの普及によって、一部の男性が悪用するのでは、と心配する意見もあります。女性のピル服用を口実に、自身の避妊をおろそかにする……といった形ですね。しかし、悪用を想定するならば、誰でも包丁を使うのと同じでキリがありません。包丁と同じように、アフターピル自体に罪はないはずです」
女性の間にも、負のイメージはあるようだ。
「アフターピルを服用すると、気持ち悪くなったり、体に悪影響があると思いこんでいる人は多いかもしれません。たしかに吐き気などは未認可の中用量ピルを2回飲むという、いわゆる『ヤッペ法』でしばしば起こることです。しかし、現在、日本では『ノルレボ』というアフターピルが認可されていて、こちらは、頭痛や吐き気といった副作用の報告はそれぞれ10%程度で、しかも一過性のものであり、妊娠のリスクを回避できると考えれば、小さなものだと考えられます」
もちろん、アフターピルの市販化を望む女性の声は少なくない。
「女性の避妊や健康をサポートするウィメンズヘルスケアの専門家団体『オーキッドクラブ』の調査(2012年)では、20~30代女性の12.3%が『アフターピルを使いたい状況』に直面した経験があると回答したといいます。別の調査でも、市販導入に対してのパブリックコメントは、348件中賛成が320件なのに対して反対はわずか28件でした」
こうした意見を受けてもなお、なぜアフターピルの市販化には至らないのだろうか。
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